2025.10.21 13:00
©2025「しびれ」製作委員会
2025.10.21 13:00
内山拓也監督の最新作で、北村匠海が主演を務める映画『しびれ』が第26回東京フィルメックス・コンペティションに選出されることが決定した。
本作は、『佐々木、イン、マイマイン』(20)や『若き見知らぬ者たち』(24)で“現実に抗いながらも何かを掴もうとする若者の青春”を見つめてきた内山監督による渾身の一作。『佐々木、イン、マイマイン』よりも前から執筆を続けてきた構想十余年のオリジナル脚本で、故郷である凍てつく冬の新潟を舞台に居場所とアイデンティティを模索する少年の物語を自伝的作品として描く。
主人公は、大きな波がうねる日本海沿いの街で、幼少期に暴君のようだった父の影響から言葉を発さず、母の亜樹と雑居ビル屋上のプレハブで暮らす少年・大地。水商売で稼ぐ亜樹はほとんど家に帰らず、やがて叔母の家に身を寄せることになるのだが、大地はどこにも居場所を見いだせないでいた。そんな中、父の行方を求めて生家を訪ねることを決意したことを境に彼の運命は大きく揺らいでいく。貧困や孤独、そして憎くて愛しい母への複雑な感情を抱えながら、大地が大きな愛を知るに至るまでの20年間が徹底した少年の視点で綴られる。

主演の北村匠海が青年期の大地を演じ、自分のもとを離れた父への静かな怒りと母への相反する感情に揺れる心の内を体現する。また、大地の母・亜樹役を宮沢りえが演じ、世間的には育児放棄と呼ばれるような生活ながら息子への確かな慈愛が滲む繊細な母親を好演。そして大地の父・大原役として永瀬正敏が出演し、かつての威厳が消え悲哀に満ちた余生を送る男を演じる。また、少年期の大地は榎本司、加藤庵次、穐本陽月の3人が演じ、それぞれが無垢で力強いまなざしで心の奥底に渦巻く寂しさや母親への愛情を表現して物語全体を牽引していく。

併せて写真家・トヤマタクロウによる劇中スチール4点が解禁され、キャストと監督らのコメントも到着。なお、第26回東京フィルメックスは11月21日(金)〜30日(日)に有楽町朝日ホールとヒューマントラストシネマ有楽町にて開催され、『しびれ』の上映スケジュールおよび舞台挨拶登壇者は公式サイトで確認できる。
東京フィルメックス 公式サイト:
https://filmex.jp
コメント一覧
北村匠海(大地役)
僕は一体誰を演じたのか、間違いなく誰かではあるのですが。
ただそれは感情という概念がそのまま形になったような、初めての芝居体験でした。
そして僕が抱えていたものは怒りそのものでした。
この映画で僕が決めていた事はただ一つで、監督にNOと言わない。
監督の見てきたもの、今信じているもの、過去の無くなったもの。
その全てを、北村匠海を介して表現して欲しいと心に決めていました。
この映画で一緒に心中してくれと監督は言ってくれたんです。すごく嬉しかった。
是非、楽しみにしていて欲しいです。
宮沢りえ(大地の母・亜樹役)
壮絶に、もがき、生きた亜樹という役を自分の身体に引き摺り込むのはとてつもなく苦しかったけれど、、内山監督はじめ、現場にいる皆んながこの作品に対して愛があって真剣で、その熱量に、私自身、演技の枠を超えてしまうような瞬間があって、それが怖くもあり、面白さでもありました。
この作品に出会えて良かったと思っています。
永瀬正敏(大地の父・大原役)
数日の参加でしたが、全身に”闇”と”負”と”後悔”を纏い続けました。
観ていただく方々の“アンチテーゼになれれば”との思いで、監督の願いと揺れをどう具現化するか?
その事だけを考えていた日々でした。
この作品を創る事、上映する事によって
監督の心の中の葛藤が、物語の時間軸と共に浄化され未来へ動き出します様に。
東京フィルメックスで上映していただけるとの事、感謝しています。
内山拓也(監督・原案・脚本)
小さな世界の大きな物語です。
少年の眼差しは、何を捉えているのか。
映像と生活音、自然の音が重なり合う。
ゆれる感情と共に、海、風、雨、雪。冬の新潟をフィルムに焼き付けました。
過ぎ去っていく日常の中で、息をすること、心の切なさ、恐ろしさ、時にある喜び、それらの空気を肌で感じること。
この映画を通して、見落としがちな日々の美しい断片に気づいたり、生活や人との関わりが愛おしく感じてもらえたらと願いました。
「しびれ」は私にとって人生をやり直すための確かな基盤となったように、
人生は何度でもやり直せ、手遅れなことはない、
再び人生を歩み出そうとするすべての人々に、
それでも前を向きたいと思うすべての人々に、
そして存在のない子供たちに、この映画を捧げます。
神谷直希(東京フィルメックス プログラム・ディレクター)
内山拓也の描く物語の主人公は、いつでも多くを語らない男だった。
比較的会話劇に近いかもしれない『佐々木、イン、マイマイン』の主人公でさえ、どちらかというと寡黙な男として設定されていた。
そして本作『しびれ』に至って、内山は主人公からほぼすべての言葉を奪ってしまった。
しかし、彼の作品で最も印象に残る主人公を問われたら、多くの観客が本作の主人公を挙げるのではないだろうか。
役者の顔と身体に、そして何よりも映像それ自体に多くを語らせること。
内山が何よりも「映画」を信じているからこそ、この領域に辿り着けたのだと、この作品を見て確信した。