2025.10.21 17:00
2025.10.21 17:00
デビュー10周年となった2022年を経て、家入レオは大きく変わった。変わったというか、きっと今まで「家入レオ」として表現してはこなかった部分の自分自身も含めて、より自由に、素直に、音楽に込めることができるようになったのだと思う。2023年の『Naked』、そして昨年の『My name』という2作のアルバムは、そうした彼女の変化をとてもストレートに、そしてとても体温のある形で伝える作品だった。
30代になって迎えた今年リリースしてきた楽曲にもそのモードチェンジは表れていたが、そういう意味でもっとも大きな驚きを与えてくれるのが、日本テレビ系水曜ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』の主題歌として書き下ろされた新曲「Mirror」である。Ryosuke “Dr.R” Sakaiがプロデュースし、客演に斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN/TenTwenty)を迎えるという、家入にとって初めて尽くしのこの曲こそ、さまざまな武装を解いて自分自身で音楽に向き合えるようになった今だからこそ生まれたものなのだろう。

ようやく「本名の部分」も音楽にできた
──家入さんは去年30歳になって、ここまで8ヵ月ぐらい30歳として過ごしてきてますが、心境はいかがですか?
楽になりました。20代は……なんでしょうね、その時その時全力で楽しんでたし、目の前にあることと対峙しながら生きてたんですけど、方向性が自分の中でまだ定まりきっていなかった感じもあって、トライアンドエラーの繰り返しでちゃんと苦しくもあったなって思うんです。でも、ちゃんとそこでもがけたからこそ、30歳になった今肩の力も抜けて、そこで得たものをもっともっと咲かせていけるんじゃないかなって思っていますね。
──そういう心境の変化は、ライブや制作におけるアプローチにも影響を与えています?
そういうところは変わってないですね。何が変わってないかっていうと、いただいた目の前のことを全力でやり切るっていうところ。それは自分の生きていく中で変わってない部分です。ただ対峙するテーマだったり、出会いというものはその都度違うので……私はせっかく誰かとご一緒するんだったら、自分の中にあるものに固執しすぎずに化学反応を楽しみたいっていうタイプなんですけど、そこがようやく本当の意味で楽しめるようになってきたなと思います。デビューした最初の頃は今以上に余裕がなかったから、自分らしさを守ることにフォーカスしていたんです。私自身をもっと解き放つためにいただいてるアドバイスも、私を変えようとしているって捉えちゃって、ファイティングポーズを常に取っていたんですよね。

──これは本当に勝手なイメージですけど、確かに家入レオというアーティストは常に戦っている感じが……。
ありますよね(笑)。
──うん。鋭利な感じがあったなと思うんです。でも昨年リリースした『My name』というアルバムを聴くとそこが明らかに違ったんですよね。あの作品には多彩なアーティストが参加していて、楽曲のテイストもバラバラで、本当に今までやってなかったような曲もいっぱい入っているようなアルバムじゃないですか。それを歌っている家入さんの歌の表情がすごく楽しそうで。知らなかった家入レオという人間を知ることができたという喜びと驚きがあったんですよね。
本当に、今までの出来事全部が今日の私に繋がっているっていうことがどんどん自分の中でも腑に落ちていっているというか、意味を深めることができていて。家入レオっていう名前、家入は本名でレオは芸名なんですけど……もともと私が曲をちゃんと作り始めたのって13歳の時なんですけど、中学生になる前まで転校も多かったし、どんどん生活環境が変わるなかで、なんとなく相手が私にしてほしいことを察しやすいタイプの人間だったんです。
今でも鮮明に覚えてるのが、私、中高大まである女子校に通ってたんですけど、その入学式の当日席に座るときに、「これって1回でも人間関係でミスをしたら、10年間友達がいなくなるってことなんだ」って思ったんです。ちょっと重く捉えちゃって。そういう時期に本音を言える場所を探していて始めたのが曲作りだったんですよね。こうして生活してる中で私の暗い部分を友人とかが見る機会って実はなくて、パッと見では明るいんですよ。その反動が曲の中ですごく暗く表れていた。でもデビューした時に、その自分の本音の部分に「家入レオ」っていう名前がついて世に出ていったというのがあって。

──本音の部分を表現した音楽なのに、自分とは違う名前で届いていくという、ちょっと捻れた状態だったんですね。
もちろん、自分の中でも日常生活を送る中で困難な部分っていうのが音楽に集約されてるので、さっきおっしゃってた鋭利なイメージってぴったりだし、家入レオが作ってきた音楽、歌ってきたものは本当に真実なんですけど……ただ、そうじゃない生活者としての私っていうのが勝手に切り離されて、イメージだけが先行してるんじゃないかっていう葛藤が20代の間は長くあったんですよ。
でも前作『My name』とか前々作『Naked』はそこを裸にしてみよう、料理したり洗濯したり、スーパー行ったりとかしてる自分っていうのももっと曲にして、「本名の部分」にもスポットを当ててみようって作ったアルバムだったんです。そこで本名の部分と家入レオの部分を両方音楽にできて、やっと一周したなっていうか。自分ってこういう人間だったんだっていうことが表現できて、10年以上かけてようやく今改めてスタートラインに立たせていただいてるなって思っています。
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