全国ツアーを前に語るソロでの願いと新曲、BiSHへの思いも
自分で自分を愛すと決めたセントチヒロ・チッチの現在地、3年間で育んだCENT“らしさ”とは
2025.10.23 18:00
2025.10.23 18:00
自分で自分の良さを認識できないなら人から吸収すればいい
──BiSHの中でもチッチさんの個を出さなきゃいけない局面ももちろんあったと思いますが、自身の個を貫く上で何を一番大事にしていましたか?
私は自分に個性があるとは思ってなくて。それは今も分からないし、自分のことが一番分からないんで。じゃあその中でどれだけ自分の意志を貫けるかというのが、自分の中での存在意義というか。
先頭を切って戦いに行く意思とか、そういう熱量みたいなものが私の中にあれば、たとえよろけることがあっても、BiSHは前に進んでいける気がしたからこそ、私はBiSHの時も個性というものに固執しなかったんですね。BiSHのメンバーはみんなが個性あるから、私がわざわざ個性なくても、BiSHってそれでカッコいいじゃんって思ってた。

──個性がないというのは、幼い時からそういう自己認識なんですか?
私はずっと普通の人間だと思ってたし、別に何かに自信があるわけじゃない。音楽を始めたのもたまたま「やってみたら?」って言ってくれる人がいて。そう言われなかったらやらなかったと思うし。
でも、普通の人生を生きたくないという気持ちは小さい時からあったんです。同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じ会社に行って、同じ人に会うという生活はできないんじゃないかって、幼いながらにずっと思っていて。あとは、とにかく面白いことに関しては貪欲であったと思います。
──面白いことに対してのアンテナの感度はあったということですね。
そうですね。自分のレーダーというか、自分が好きなものとか面白いと思うものへ向かう力はいつもあったと思います。
──チッチさんが面白いって感じるものの共通項はありますか?
ないですね。全部バラバラだし、自分でもその時にならないと分からない。でもいつまでもワクワクすることをしていたいと思うので、あまり保守的なことを選ぶことは少ないですね。いつまでもチャレンジしていたり、保守的ではない姿勢ではありたい。時には保守的でいなきゃいけない時があるけど、「その選択、面白いね」って自分でも思える人になりたいと思ってますね。

──ソロ始動後は自己対話する時間も増えたと思います。この3年間はどのような思いがありましたか?
そうですね、自己対話が一番しんどいなと思いました。自分のことを考えたくないって正直思った(笑)。BiSHの時はみんなのことを考えてるのがすごく楽しくて。「今日はそういう感じなんだ」とか、「ああ、最近こうだな」とか、「今言った言葉ってどういう意味だったかな?」って考えるのめっちゃ好きだったんですよね。でも自分のことになると途端に分からなくなる。
ただBiSHの時から大事にしていたのは、自分で自分の良さを認識できないのであれば、人の言葉や人の意見から自分の良さを吸収するということ。誰かに頼ることは、全く恥ずかしいことじゃなくて。それはBiSHのメンバーでもいいし、スタッフでもいいし、全く関係ない人とディスカッションしてみて、「私のいいとこってなんだと思う?」ってできるだけ聞くようにしてました。「今日のライブのどこが良かった?」「いいってどの辺がいい?」って。細かく自分の養分をもらえるように、自分の自信を自分で保つために。そういうふうに生きてきたし、ソロになってもそこは変わらないですね。
でも、じゃあCENTになったから個性がある方がいいのか?って言ったら、別にそれが正解かは私もまだ分からないんです。今ありのままの表現をしている中で、「ここが面白いね」とか、「ここが個性だね」って言われたことを自分の中で学んでる最中です。それは、ソロのプロフィールを自分で書いているような感覚で。

──メジャー1stミニアルバム『らぶあるばむ』を聴いた時に、いろんな音楽的アプローチと向き合いながら、ご自身の可能性を探っているという印象を持ちました。愛というテーマを真ん中に置いて、その可能性を楽曲に投射していると。あるいは、表現性としての色を一つに決めたくないという思いも感じたんですね。
そうですね。色を決めたくないし、これからも決めるつもりはなくて。それで、アーティスト名をCENTにしたんです。セントヒロ・チッチでも良かったけど、ソロプロジェクトとして名前を付けることで、どんな形でもCENTであるという提示がしたかったんです。バンドでもCENTだし、一人で歌っていてもCENTだし、DJが後ろにいてもCENTだしという、そういうアーティストでいたいなと思ったので。それもあって固定のバンドを組まなかったし、セントチヒロ・チッチ名義で始めなかったんですね。
だから、どんな音楽性でも発信できるようなアーティストでいたいなと思うし、正解を決めつけずに受け取る人たちが、「この曲が好きだな」「このCENTが好きだな」ってみんながそれぞれ好きなものを見つけてくれたら、それが最高って思ってます。
──その考え方は、あるいは俳優業と重なる部分もありそうですね。
ああ、確かに。求められた私へのイメージやお芝居の仕方に対して応えなきゃいけないと思うし、でもその中でやっぱ自分を生かしたいみたいという欲求も出てきていて。確かに……そうかも。
──現在進行形で、可能性という余白を感じている。
うん、すごく余白を感じてます。それが、面白いと思ってる。「私、まだこんなことできるんだ」って気づかせてもらったり。お芝居した後とかに完成したドラマが流れてるのを観て、「こんな顔してたんだ!」とか思う時もあります(笑)。
レコーディング1個でもこれまで聴いたことのない自分の声が出てきたりとか、ディレクションしてくれる人によってやっぱり声の表情がすごい変わるので。声だけじゃなくて、気持ちも変わるし、声色も変わる。それがすごく面白いなと思いました。
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