演じ続けてきた20年を経て清水邦夫の名作戯曲に挑む
「やっと心から笑えるようになりました」岡本玲が憧れてばかりの自分を肯定できた理由
2025.10.09 18:00
2025.10.09 18:00
20代の頃は劇薬に頼ろうとしていた
──清水さんの描く戯曲には人間の狂気性が宿っています。岡本さんは自分自身に狂気性を感じることはありますか。
私は自分のことをものすごく普通で、つまらない人間だと思っていたんです。でも、各所からそんなことないぞと言われすぎたせいで、自分にもこじらせているところがあるのかもしれないなって最近自覚しはじめました。
──周りのみなさんは岡本さんのどこを見て、そんなことないぞと言ってるんでしょうね。
なんでしょうね。12歳からこの仕事を始めて。お芝居を始めたのは15歳のとき。そこから20年ずっとお芝居をやり続けている。そのしぶとさには狂気性を感じるのかもしれません。

──それこそ以前、自主企画で公演を打っていたじゃないですか。あれは、表現の場を欲していたからでしょうか。
そうです。役者は受け身の職業なので。能動的に自分の居場所をつくっていかなきゃいけないという危機感がありました。大変でしたけど、やって良かったです。あそこで、やっと変われた気がした。今、私は舞台のお仕事が多いのですが、私は演劇が好きなんだということを示せたのはあの自主公演がきっかけでした。周りも私のことをそういう人だと見てくれるようになって。あからさまに環境が変わったという意味でも、私の中で大きな分岐点でした。
──これは個人的な感想なんですが、インスタなどで拝見する岡本さんの笑顔がすごくいいなと思ったんです。いわゆる可愛いキラキラした笑顔というだけじゃない。人生をちゃんとくぐり抜けてきた人だけが出せる、嘘のない笑顔な気がして。
笑顔を見せることが苦ではなくなりました。それは昔より経験が増えたということもあるし、スタッフさんのことを信頼して、相手に委ねることも大事なんだとわかるようになってきたからかもしれない。笑えないときは無理して笑わなくていい。そういう選択肢を持てるようになったからこそ、私がカメラの前で笑っているときは本当に笑いたいと思っているときなんです。

──ご自身では自分の笑顔をどう捉えていますか。昔より今の笑顔のほうが好きだなみたいな実感はありますか。
ありますあります。10代や20代前半の頃は、笑顔なんだけど、どこか苛立ちみたいなものが含まれていた。その頃に比べると成長しているなと思うし、今いい環境にいられているんだなって感謝したくなりますね。
──苛立ちですか。
その苛立ちの矛先は周りじゃなくて、自分自身。偽っている自分への苛立ちですね。若い頃は、世間からの見え方を勝手に自分自身でつくり上げていた。信用できる人たちと出会えたことで、それを捨てられて、やっと心から笑えるようになりました。
──今年1月のインスタに「自分に合う平和な日々の過ごし方がわかってきた気もする」と投稿されていました。今、ご自身にとって平和な日々の過ごし方ってどういうものですか。
多くの刺激や快感を求めすぎない。劇薬に頼らないということですね。それよりも歩いているときに感じた街の匂いとか、もっと些細なことに敏感になってみる。“足るを知る”ということを実践するようにしています。
──ということは、昔はもっと劇薬を求めていたんですか。
自分のことをつまらない人間だと思っていたからこそ、爆発力のある何かに手を伸ばしがちでした。でも劇薬って副作用がものすごいので。そういう刺激は20代の頃にじゅうぶん経験したので、今の私には必要ないかなって。特にこの仕事は自分から遠い場所にいる人に何かを届ける職業なので、私生活ではなるべく身近なものに敏感でありたいと考えるようになりました。

──劇薬に頼っていたのは、つまらない自分を変えてほしかったからですか。
はい。でも他者に変えてもらいたいなんて、結局、能動的じゃないんですよね。そういう他責思考を手放すことで、少しずつ自分が変わっていった気がします。
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