2025.09.21 11:00
MUSE(Photo by POLOCHO)
2025.09.21 11:00
マシューが魅せる未来のギタースタイル
MUSEが痛快だったのは、ブリットポップムーブメント時代、キャストやマンサンらが足を踏み入れつつも挫折してしまった、ギターサウンドの新たな構築やシンセを駆使したバンドゆえの可能性を追究しているように見えたからだ。3rdアルバム『Absolution』(2003年)はジャケットも見事で、数々のプログレッシヴロックの名盤を手がけたヒプノシスのメンバーだったストーム・トーガソンによるものだと知り、MUSEが特別のバンドに感じられることの合点がいった。
打ち込みサウンドと同期するのはいいが、そちらのサウンドに埋没してしまう残念なバンドも多かった中、MUSEは壮大な世界観を表現しつつもマシュー・ベラミーのHR/HM顔負けのディストーション・サウンドのギターリフが飛び出すのがたまらなかったのである。それでいてメロディメーカーとして、美しいファルセットを駆使するシンガーとしてのマシューの才覚はもちろん最高なのだが、同時に面白かったのがギタースタイル。2000年に入りギタービルダー、ヒュー・マンソンのカスタムギターを使い始めたが、ギターファンの間で話題を呼んだのがデロリアンと称された愛器。通常のギターピックアップのほか、ローランドのギターシンセサイザー用GKピックアップも搭載、アルミニウムカバーにより、たくさんのノブやスイッチを備えたシルバーの装いは、まさに“未来のギター”だった。
マンソンはマシューのほか、ジョン・ポール・ジョーンズ(レッド・ツェッペリンのベーシストであり優れた弦楽器奏者)らの愛用でも脚光を浴びたブランドだが、その後、マシューはマンソンの実質的なオーナーとなり、自身のシグネチャーモデルを次々と開発するようになる。中でもコルグ製エフェクター/サンプラーのカオスパッドなどを、ボディエンド側にマウントした、MIDIパッドで操作できるスペックのカスタムモデルはインパクト抜群で、個人的にもライブで初めて観たときは相当面食らった。とはいえ、アンプ、エフェクターでは結構定番モデルも愛用しており、決して気をてらうタイプではなくて、新しいものも採り入れながらも他の楽器との調和を重視した、極めてスタンダードなトーンを生み出すタイプのギタリストなのである。
この6月、MUSEは実に3年ぶりとなるシングル「Unravelling」を発表。指弾きによるアコースティックギターとパーカッション、重厚な男女コーラスをフィーチャーしたミディアムナンバーであり、プリミティヴで生々しい肉体味あふれるサウンドの楽曲だ。先述のライブサポートメンバーであるダン・ランカスターとタッグを組み生み出された一曲で、オーディオ的な意味でのサウンド面でもMUSEならではの美しさを堪能。ジャケットに描かれた“ほうかい”の平仮名が実に印象的だが、まさに“音もなく崩壊していく”恋人との関係性を歌い上げている。このジャケットワークは2パターンあり、いずれもかの『AKIRA』のようなディストピア感を彷彿させるものだ。すでにライブでも披露されており、来日公演のセットリストにどのように組み込まれて、どんな演出でプレイされるのだろうか……美しくも不穏であり、どこかゴスペルティックなムードも漂わせる要素は、『Will of the People』(2022年)よりも『Simulation Theory』(2018年)からの流れを感じさせるのだが。いずれにしろ、さらなる境地に向かいつつあるMUSEの今を感じさせる楽曲に仕上がっている。