西田征史と実力派キャスト陣による群像喜劇の魅力をお裾分け
髙地優吾がくれる心いっぱいの幸福感!『ある日、ある時、ない男。』に教わる“真のラッキー”とは
2025.08.29 19:00
2025.08.29 19:00
激しく心が揺さぶられる舞台もいい。いったい何を見せられたのだろうと呆然となるような舞台もいい。でもそれらと同じくらい、ただただ面白くて、ハッピーで、終わったあと「楽しかったー!」と言える舞台も素晴らしいと思う。8月25日に初日を迎えた『ある日、ある時、ない男。』は、そんな舞台だ。
作・演出は、『石子と羽男 -そんなコトで訴えます?-』の西田征史。主演は、SixTONESの髙地優吾。運もお金もなければ、夢も希望もない。ないない尽くしの主人公・良介(髙地)を中心に、ちょっぴり人生に行きづまっている人々たちが織りなす群像喜劇だ。
初日に先駆けて行われた公開ゲネプロをもとに、本作が振りまく幸福感をお裾分けしたい。
観客を虜にする、パズルのような伏線回収
自分は何のために生きてるんだろうか。多くの人が一度は抱えたことのある悩みだ。夢中になってやれることが、誰かの役に立てることが、何か一つあるだけで、もっと胸を張って生きられるのに。主人公・良介もそんな焦りともどかしさの中にいた。
良介は友達思いで真面目ないいヤツ。だけど、超絶的に運が悪い。勤め先は次から次に倒産。バイトの面接に行ったと思ったら、その間に自転車のサドルを盗まれ、人助けのつもりで親切をしたら押し売り被害に遭う。誰かの役に立つどころか、自分の人生さえままならない毎日だ。

そんな運に見放されっぱなしの人生をひっくり返す出来事が、良介に舞い込む。かつて自分を騙した詐欺師が、あるスキャンダルをゆすりのネタに使って、取引を持ちかけているところを見かけたのだ。取引場所はまもなくオープンする巨大なショッピングモール。金額は、2000万円。この2000万円を横取りできれば、ツイていないことだらけの自分の人生も変わるかもしれない。はたしてこれは良介にとって千載一遇のラッキーか。それとも、さらなるどん底人生へと続くアンラッキーか。どうしようもなくツイていない男の逆転劇が幕を開けた……!
本作の魅力は、まるでジグソーパズルのような構成にある。メインキャラクターは、主人公の良介に加え、良介の友人で自称ミュージシャンの直樹(森永悠希)、直樹を支える恋人のたまよ(大野いと)、人気マジシャンの信男(オラキオ)、清掃員の小百合(佐藤仁美)、そしてバツイチの中年男性・八木(片桐仁)の6人。この中で良介と直接的な接点があるのは、直樹とたまよだけだ。にもかかわらず、ショッピングモールを舞台にそれぞれの人生が交差することで、知らず知らずの間に互いに影響を与え合う。その様子が、まるでピースがぴたりとハマったパズルのようで、見ているだけで気持ちいい。


何気なく登場した人物やアイテムが意外な形で結びつく伏線回収的な面白さは、伊坂幸太郎の小説や内田けんじの映画が好きな人にはたまらないはず。あるいは、『ラブ・アクチュアリー』や『マグノリア』のように一見すると何の接点もない人たちのドラマが同時多発的に展開し、ラストに向けて収束するストーリーが好きな人にもぴったりの作品だ。メイン6人だけでなく、窃盗犯から募金を集める少女まで、すべてのキャラクターに見せ場が用意されている。「ここでこの人物が出てくるか〜」と膝を打つような快感に思い切り振り回されてほしい。

また、アンジャッシュのすれ違いコントのような笑いの数々も見どころの一つ。物語冒頭で描かれる良介の面接シーンは、こんな感じでボケていきますので、どうぞ思い切り笑ってくださいという開幕宣言のようなもの。西田征史の紡ぐドタバタコメディに、きっと心まで満たされるだろう。
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