初主演映画『蔵のある街』がくれた自信、飾らない素顔に迫る
あきらめ癖は俳優としての“切り替え力”に、20歳の実力派・山時聡真を成長させる向上心
2025.08.25 18:00
2025.08.25 18:00
実はこっそり飲食店でバイトをしています
──今回、山時さんのお芝居ですごくいいなと思ったのが、集会所のシーンです。美観地区に花火を上げたいという蒼たちの提案に対し、大人たちは前例がないと乗り気ではありません。そんな消極的な大人たちに向けて、蒼は気持ちをぶつけるわけですが、あそこは本作の中でもとりわけ大きな感情を使うシーンでした。
実はあのシーンは、監督からのリベンジマッチだったんですよ。

──どういうことでしょう。
自分たちのその場しのぎの計画のせいできょんくん(恭介の愛称)がパニックになってしまって、それに対して蒼が自己嫌悪に陥るシーンをその前に撮っていたんです。でも、なかなか納得いくものができなくて。しっかり蒼の感情をつくって持ってきたつもりだったのに、テイクを重ねるごとにスランプに入ってしまって、自分でも何がしたいのかよくわからなくなってしまったんです。
その後に撮ったのが、この集会所のシーンでした。自信をなくしてしまっている僕のために、監督がちょっとテイストを変えてくれたんです。もともとはもっと怒りが強かったんですけど、そこに悲しみのニュアンスを乗せてくれて。きっとこれは僕に対するリベンジマッチだなと。
──なるほど。その前のシーンでやりきれなかったことを昇華する機会をもらえたんですね。
変更になった部分を紙でいただいて、これは監督からの挑戦状だと思いました。もうプレッシャーがすごかったです。撮影は3日後で、その3日間は緊張や不安といったいろんな感情が渦巻いていて、撮影が終わってホテルに戻るたびに「うわ、もう明後日だ」と一人でカウントダウンしていました。
本番当日は、とにかくもうやってやろうという気持ちで臨みました。終わった後、監督から「良かったよ」と言っていただけたことがすごくうれしかったです。自信を取り戻せたし、この映画の中でもいちばん思い出に残るシーンになりました。

──打ち上げ花火の賛同者を集めるためのチラシに、蒼は「無謀なことだからと言って、あきらめるのは違う気がするのです」と綴ります。山時さんは無謀なことでも挑戦したいタイプですか。それともすぐあきらめがちなタイプですか。
僕はすぐあきらめてしまいます。今までもわりと逃げてしまうというか、楽なほうを選んでしまうことが多くて。今、大学に通っているんですけど、仕事もあってなかなか行けてなくて。ある授業に対して、「全然出席できていないんですけど、単位取れますか」と直接先生に聞いてみたんですね。そしたら、「ちょっと厳しいかも」と言われたんで、そこでもういいやってあきらめてしまったんです。
でも、同じように芸能の仕事をやっている友達がいて、同じ授業を履修していたんですけど、その子は厳しいかもしれないとわかっているのに、ちゃんとそのあとも授業に通い続けていたんです。その姿を見て、あ、僕って結構あきらめ癖があるんだなと自覚しました(笑)。
──何でもあきらめがちだった蒼が、無謀なことでもあきらめずに挑戦できたのはなぜだと思いますか。
やはりそれは紅白(紅子の愛称)の存在が大きいと思います。紅白はどんなに自分の置かれている状況が苦しくても、あきらめずに夢を追いかけていた。その姿を見て影響されたところがあったのだと思います。ナレーションを録るときに、そのチラシの文章を僕も改めていい台詞だなと思いました。この言葉を胸に刻んで、もうちょっとしぶとく頑張れるようになりたいと思いました。

©︎2025 つなぐ映画「蔵のある街」実行委員会
──花火を上げるために何から始めたらいいかわからない蒼を助けてくれたのが、偶然知り合った学芸員の古城でした。そんな大人の支えの大きさを感じる映画でもありますが、山時さんにとって自分の成長を促してくれた大人というと、どなたとの思い出が浮かびますか。
最近、事務所の社長から「もっと好奇心を持って」と言われたんです。もともと好奇心はあるほうなんですけど、興味の幅が狭くて。もっといろんなことに興味を持てるようになりたいなと思って、実はちょっとバイトを始めました。
──あら。そうなんですか。
月1回くらいのペースで、飲食店で働かせてもらっています。飲食店のお仕事って本当に大変なんですよ。一瞬たりとも何も考えなくていい時間がない。僕らのお仕事って待ち時間も多いし、本番に向けて集中力を上げていくためにも、昼休憩とか、あえて何も考えずに頭を休める時間をつくるように心がけているんですけど、接客をしていると、その暇もないんです。注文をとったり、常にやることがある。そのことを知れただけでも世界が広がった気がするし、社長のあの言葉は僕を変えてくれた一言になりました。

──いいと思います。先輩の俳優さんでも、人生勉強のためにバイトをしていたという話は聞きますし。
僕もそういう話を聞いたことがあって、やってみようと思ったんです。接客ってお客さんと直接対面する仕事なので、短いやりとりの中で相手にどういう印象を与えたいか工夫しなきゃいけないし、この人だったらどういうものを食べてもらいたいかなと考えるのも楽しい。おかげで、どんどん人の思考が見えるようになってきた気がします。
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