映画『星つなぎのエリオ』で演じた父親像がくれた気づきとは
「一人を楽しめるのは、独りじゃないから」現代を旅する松山ケンイチに聞く生き方のヒント
2025.08.12 17:30
2025.08.12 17:30
身近な愛に気づけないときは旅に出るといい
──自分の居場所を感じられないエリオは「ここではないどこか」を求めて銀河へと旅立ちます。松山さんにも「ここではないどこか」を探した時期はありますか。
僕はあんまりそういうことを考えたことがなかったんですよね。というのも、一人の時間が結構好きな人間なので。
──なるほど。孤独を楽しめる人なんですね。
でもそう思えるのは、ちゃんと誰かとつながっていると感じられるからで。そういう意味で、僕は人に恵まれているんだと思います。子どもの頃から、両親含め常に誰かがそばにいてくれた。一人を楽しめるのは、独りじゃないからなんですよね。

──仕事のために地元の青森を出て東京に来たときはどうでしょう。居場所がないと感じることはありそうですが。
全然。だって、もともと自分の居場所がないところに行くわけですから、居場所がなくて当たり前。孤独を感じる理由がないんですよね。というか、僕にとって東京に出てくることは旅みたいなものだから。わりと旅を楽しんでる感覚でいました。
──そばにいてくれる人の存在を感じていたから、一人でも独りとは思わなかったというのはその通りだと思いますが、エリオもまた叔母のオルガがちゃんと愛を注いでくれているのですが、なかなかそれを感じることができませんでした。
エリオの場合、状況が状況ですからね。両親を亡くすという経験を僕はまだしたことがないのでわからないですけど、じゃあたとえば自分がいなくなったときに、子どもがどう思うかというと……せいせいしたと思われるかもしれないですけど、頼れる存在がいなくなって困るとは思うんです。精神的な支えを失うって凄く大変なことだと思うので、あんなふうに周りが見えなくなってしまうのもわかる気がします。

──ちゃんとそこに愛はあるのに、それに気づけず孤独に陥ってしまう人って少なからずいる気がして。どうしたら人は身近にある愛にちゃんと目を向けられるようになるんでしょう。
旅に出てみるといいんじゃないですか。エリオも一人で宇宙に行って気づいたことがたくさんある。旅をすると、いろんな人と出会う。初めましての人とふれ合うことで、逆に身近にいた人たちのことを振り返ることができるんじゃないかと思います。
──確かに。旅とは違うかもしれませんが、親元から離れることで、親のありがたみがわかるというのは自分にも身に覚えがあります。
ずっと同じ場所にとどまり続けていると変化が生まれない。その場所から出てみることで、違う角度から物事を見られるようになります。そこで初めて、自分はそこにいるべきか、いるべきではないのかということもわかるようになるんじゃないかな。

──気づいていないだけで、いろんな人とのつながりが自分を支えてくれているんですよね。この映画のクライマックスは、まさにまだ見ぬいろんな人とのつながりの尊さが描かれています。
人とつながるって、幸せなことだと思いますよ。SNSの話に戻りますけど、僕が企画したことに、いろんな人が面白がって参加してくれるのなんて、もう純粋にありがたいですよね。一つのパワーを感じるといいますか。つながりの中から新しい発見を得たり、新しい価値観を学ぶことがたくさんある。それをちゃんと自分の人生に活かしていきたいと思っています。
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