映画『星つなぎのエリオ』で演じた父親像がくれた気づきとは
「一人を楽しめるのは、独りじゃないから」現代を旅する松山ケンイチに聞く生き方のヒント
2025.08.12 17:30
2025.08.12 17:30
松山ケンイチという人は、とてもユニークだ。数々の名作を世に残してきた名優の一人でありながら、故郷の訛りが今も不意に覗く素朴さを失わず、どこか浮世離れした仙人のような空気を醸している。
と思えば、Xでは愉快な投稿の数々でタイムラインを賑わせ、YouTubeでは爆速お遍路ソロの旅を決行。アニメ好き、ゲーム好きとしても知られ、ネット民からの支持は絶大。一方で、ライフスタイルブランド〈momiji〉のオーナーとして、サスティナブルな社会のためにできることを自らの手で実践している。その飄々としながらも確かな芯を持った生き方は、何かと息苦しい現代において憧れですらある。
松山ケンイチは今、どんなことを大切にしながら日々を過ごしているのか。日本語吹き替えを務めた映画『星つなぎのエリオ』と共に、松山ケンイチの世界をほんの少し旅してみたい。
※記事の中に、松山さんが演じたグライゴンの核心にふれる記述があります。未見の方はご注意ください。
自分自身をもっと活かしたくてSNSを始めた
──まずは『星つなぎのエリオ』のどんなところに感銘を受けたか聞かせてください。
グライゴンという役をやらせていただきましたので、やはり同じ父として、父親目線で観てたんですけど、もう共感しかなかったですね。ぜひみなさんに観ていただきたい作品です。
──グライゴンは星と星をつなぐ“コミュニバース”に拒まれ復讐に燃える悪役かと思いきや、終盤でお父さんとしての意外な顔を見せます。
ぱっと見はもの凄く怖いリーダーなんですけど、ちゃんと父親としての顔を持っていて。これって僕たちもみんな同じだと思うんですよね。どんな人も社会でやっていくために何かしら鎧を身にまとっている。僕も今こうして俳優としてインタビューを受けさせてもらっていますが、これも何かしら俳優という枠組みに自分をはめ込んでいるようなところがあって。みんながそうやって自分の役割を演じることで、この社会は成立している。でもそれは本当の自分とはまたちょっと違うじゃないですか。
──そうですね。あくまで外向きの自分です。
やろうと思えば、四六時中仕事もできちゃう現代で、はたして人はどのタイミングで鎧を脱いで裸になるのか、そんなことをついグライゴンを見て考えたんですけど、きっとそのきっかけをくれるのが子どもなんですよね。

──グライゴンにはグロードンという子どもがいて、このグロードンが主人公・エリオの初めての友達になります。
子どもは大人を見て役割を演じるということを覚えていく。でも、本来の子どもというのはまだ何者でもなく、そのあり方は自然そのもの。そんな子どもの姿を見て、こんなふうに生きてもいいんじゃないかと教えられたというか。なんだか鎧を着るのが面倒くさい気持ちになりました。
──松山さん自身、若い頃はストイックにお芝居をやっていたのが、家庭を持って変わったということをよくインタビューで話されていますよね。
自分が何をやりたいのか、何を求めているのか、ということにより向き合うようになりました。社会で生きていると、これをやったらみんなに迷惑がかかるかなと思って、ためらっちゃうことってあるじゃないですか。でも自分の人生、結局今しかない。だったら我慢するのもなあ、と。だったら、いろんなことをやってみて、ちゃんと失敗したいなと最近は考えています。
──最近はお芝居はもちろん、Xのタイムラインでよく松山さんをお見かけします。わりと長い間、寡黙で職人気質なイメージがあったので、こんな面白い人だったんだと驚きました。
そうですね。今までのイメージを自ら崩しにいくパターンでやっています(笑)。
──そんなふうにご自身のキャラクターを表に出すきっかけは何があったんでしょう。
僕は〈momiji〉という自分のブランドで資源を活かす取り組みをやっていまして。捨てられてしまう貴重な資源を〈momiji〉ではアップサイクルしてるんですけど、ちゃんとその活かすということを自分自身でもやらないと説得力がないなと思ったんです。俳優ってなかなか自分自身を活かすことがないじゃないですか。まだ僕の中に活かしきれていない部分がきっとある。その実験の一つとして、今までずっとやってこなかったSNSを始めました。

──俳優・松平健さんの本の帯を書くにあたって、Xでめっちゃネタにしていましたよね。あれとかめちゃくちゃ面白かったです。
あれに関していちばん凄いのは、ただあだ名が同じというだけで、一回も共演したことのない僕にオファーをしてきた出版社さんですけどね(笑)。
──オファーするほうもするほうですが、受けるほうも受けるほうです。
そうですね。マネージャーからは「お付き合いがあるわけじゃないし、もしかしたら失礼になるかもしれないので」と話があったんですけど、「いや、これはやってみよう」と言って受けました。
──ちなみに、松平健さんから何か感想はありましたか。
わからないです。ただ、贈り物をいただいたので、ということは大丈夫だったってことかなと解釈しています。怒られなくて良かったです。
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