2025.07.08 18:00
2025.07.08 18:00
2024年に配信された『SHOGUN 将軍』への出演で話題となり、映画『福田村事件』やNHK大河ドラマ『べらぼう』など、注目作、大作への出演が相次いでいる向里祐香。俳優デビューから10数年経った今、長いキャリアの中で積み重ねてきたものが、まさに花開いている状況といえそうだ。
山本直樹の同名マンガが原作の『YOUNG&FINE』では、海沿いの街に現れ、主人公の男子高校生と仲良くなっていく女教師を演じた彼女。最新作について、近年大きな変化を見せている自身を取り巻く環境について、今後の展望について……プライベート含め、今注目を浴びている彼女の素顔に迫る。

この作品には、日常にちょっといい色を加えるような良さがある
──『YOUNG&FINE』を拝見したんですが、山本直樹作品独特の温度感と言うか空気感がすごくリアルに出ていたような気がして、そこにまず驚きました。
そうなんですよね。私も山本直樹さんのことは存じ上げていたのですが、この『YOUNG&FINE』は読んだことがなく、先に今回の脚本を読みました。城定秀夫さんが脚本を書いたというのもあって、キャラクターがそれぞれ人間くさくて、ああ、やっぱり城定さんいいなあと思ってました。そのあとに原作マンガを読んだんですけど、ちゃんとこのマンガの世界にある異質感っていうか、空気感……この街の空気みたいなのがマッチしてて。城定さんも山本直樹さんの作品が大好きと仰っているので、ちゃんとリスペクトしつつも城定節を入れていて、そこが素晴らしいなと思いました。
──脚本の段階でもそれがわかった、っていうことですよね。
そうですね。城定秀夫さんとは、城定さんが監督を担当された『愛なのに』でご一緒したんですけど、その作品がとても面白くて信頼感があったんです。今回も登場人物が“映画の、作品のために存在している”のではなく、ちゃんとそこで生活して生きていて、その中の一部を切り取った感じがある。青春の時間というのがそこに描かれている、それが城定さんの書く脚本だな、と思いました。人間くささとか湿度だったり、海のにおいがしてくる感じとか、原作のそういう部分をちゃんと大事にしたまま、映画になっているというか。
──確かに、凄く魅力的なんですけど、この魅力をうまく言語化するのは難しいな! というタイプの映画でもあるなと思いながら観てました。
映画って、作品を通して何かを伝えなきゃとか、強いメッセージ性とか、社会的に問題になっていることを扱うとか、そういう作品も勿論たくさんあるんですけど、この作品はそうじゃなくて。ただここに登場している人物たちを観察して、見終わった後に何か懐かしさを感じたり、「あの人には連絡してみようかな」とふと思ったりするかもしれない。日常にちょっといい色を加えるような『YOUNG&FINE』らしい良さがある、そういう映画だなあと思います。見たら分かってもらえると思います。
──向里さんが演じられた学がまた、すごく山本直樹作品の登場人物ぽくてびっくりしたんですよ。姿勢が悪くてちょっと猫背な感じが印象的だったんですが、そういう部分は意識されましたか?
そうですね。原作ではちょっとミステリアスで、いい香りがしてきそうだけど、ちょっとズボラで男くさいところもあるキャラクターで。その感じをどう表現したらいいか考えましたね。少しがに股で歩いたりしてがさつさを出してみたり。あと原作ではメガネをかけていないんですけど、目に光が入りづらくなって、ちょっとミステリアスで何を考えているか分からないという表現ができたかなと。そういう細かい工夫はありました。

──ガサツでありつつも、女性らしい部分もありつつ。
寝ている時の姿なんかは、女性らしい部分も見せつつというのは、小南監督がすごくこだわっていました。結果的に、いいバランスで「伊沢学」が存在できたんじゃないかな、と思っています。
──新原泰佑さん演じる灰野勝彦とのやりとりも、絶妙な距離感でしたよね。
そこは難しくて、あからさまに「この2人はなにかありそうだな」と見えたら、先が分かってしまうのでつまらなくなる。「ありそうでなさそう」というのを維持したまま最後まで……というのが大事で。実は監督と一番最初に話し合ったのが、私が恋愛として灰野君のことが好きなのか、人として好きなのかということなんですね。そこはしっかりと共通認識を持ったところです。あとは現場では都度いろいろ話し合ったり、「こうしてみるのはどうですか」と提案してやってみたりと、その場で作っていく感じがありましたね。
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