2025.06.10 12:00
2025.06.10 12:00
乃木坂46卒業後、競馬にYouTube、そして女優と活躍の場を広げ続ける北野日奈子。卒業時点では「やりたいことが何もなかった」と言う彼女は、どう自分の道を見つけていったのだろうか。
そこには、好きなものに対する愛は誰にも負けないという、北野日奈子だけの強みがあった。

今は肩書きに女優さんも“入れてもらっている”感覚なんです
──まずは出演中の舞台『春醒』の感想をお聞かせください。(取材は5月末に実施)
もうすでに父と母と妹が観に来てくれて。3人とも大喜びで、「いい作品に関われてよかったね」と感想をくれました。演じていてもすごく楽しいんです。笑いもありつつ、ジーンと来るようなところもあって、お客さんの反応を見ていても、ちゃんと作品の伝えたいことが伝わっているのかなという手応えを感じています。
──演出の川尻(恵太)さんらしい細かいツッコミをまぶせた笑いが特徴的な作品ですね。アドリブっぽいやりとりも多くて、日替わりネタも結構あるのかなと思いました。
日替わりネタもありますし、日替わりじゃないところが日替わりになっていたりもします(笑)。私と(共演者の)寶珠山駿くんがつい笑っちゃうタイプなんですね。二人が隣同士になると、お互いの笑いを我慢する声まで聞こえて、余計に笑いそうになっちゃうんです(笑)。
──北野さん自らボケに加わることも?
私はスベるのが怖いのでボケないです(笑)。パスが回ってきたら、その場で瞬発的に返すことはあるけど、自分からボケてやろうぜとはならないですね。

──じゃあ、そのパスもできれば回ってきてほしくなかったり?
そうなんです! だから、本番中は川尻さんと目が合わないようしています(笑)。
川尻さんとはまだ乃木坂46にいた頃に『じょしらく』という舞台でお世話になって。当時、齋藤飛鳥ちゃんと二人で「子どもおじさん」ってあだ名をつけていたくらい、小学生みたいなギャグが好きな方なんですけど。ずっと私のことを気にかけてくださって、私が活動を休止していた時期も救われるような言葉をたくさんいただきました。川尻さんのお葬式に参列している自分を勝手に想像できるくらい(笑)、これからも一生関わっていきたいなと思える方です。
──脳内で川尻さんのことを故人にしていて、ちょっと笑いました(笑)。
なんならその先に「1周忌だね」ってみんなで集まっている姿も想像しています(笑)。
──『じょしらく』で初めて川尻さんとご一緒したときは、北野さんもまだお芝居のことがまったくわからない状態だったと思うんですね。それから経験を重ねて、こうしてまた作品をつくると、やっぱり成長したところを見せたいという意気込みも湧いてくるのでしょうか。
そこは全然なかったですね。むしろ変わっていないな自分って思うことのほうが多くて。今年で29歳。年齢的には立派な大人なんですけど、気持ちの部分ではまだ全然成長できていなくて。大人になると、少なからずあきらめなきゃいけないこととか見過ごさなきゃいけないことが増えてくる。それも必要な経験だと頭ではわかっているんですけど、私はついそれに抗ってしまうんですよね。
そういう大人になれない私のことを川尻さんは認めてくださると思っていたので、いいところを見せようとか、カッコつけようとか、まったく思わず、そのままの私で現場にいられました。

──乃木坂46卒業後も、着々と演技の経験を積んでいます。お芝居に対する向き合い方に変化はありますか。
乃木坂の舞台は、来てくださる方も乃木坂のファン。だから、舞台もお芝居というより、数あるイベントの一つという感覚に近くて。ライブで歌詞を間違わないようにするのと同じ感覚で、台詞を間違えずに言おうという感じだったんですよ。だからもうまったく別物ですよね。
そもそも乃木坂を卒業したときも、女優さんになろうという気持ちはなくて。とりあえずやりたいことを見つけようと思って、いろんなことをやっているうちの一つにお芝居がありました。
──そうなんですよね。乃木坂46のみなさんは、わりと明確に女優になることを掲げて卒業される方が多いですけど、北野さんの場合はそうじゃなかったから。
なりたいものはありませんって感じで(笑)。とりあえずYouTubeに興味があるからYouTubeやってみる、みたいな。
──でも白紙だからこそ、いろんな絵を描けたのかなという気がします。
そうですね。現場に呼んでいただくたびに、先輩方がどういう気持ちで役と向き合っているのかを見させてもらって。私自身、いろんな役を経験して、自分と重なりすぎてしんどいなと思うこともあったし、子供がいる役は全然わからんと思うこともありました(笑)。 今でも自分に自信はないですし、この先もずっと女優さんとしてやっているビジョンみたいなものはなかなか想像がつかないんですけど。北野日奈子の肩書きとして、今は元乃木坂46が最初にあって、そこから競馬タレントとかYouTuberとかいろいろある中で、女優さんも“入れてもらっている”感覚なんです。それがいつか胸を張って女優と入れられるようになったらいいなと思います。
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