主要キャスト一新で届けられる名ミュージカルの魅力を解説
その“愛される理由”はステージから客席へ、“あなた”に寄り添う2025年版『キンキーブーツ』開幕
2025.04.29 20:55
2025.04.29 20:55
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が、東京・東急シアターオーブにて4月27日(日)に開幕。初日に先立ち、公開ゲネプロと初日前の囲み会見が行われた。
本作は、2005年に公開された映画『キンキーブーツ』を原作としたミュージカル。初演は2013年にブロードウェイにて。日本では2016年、2019年、2022年に上演され、このたび4度目の上演となる。
2025年版の『キンキーブーツ』は、チャーリー、ローラともにダブルキャストでの上演。チャーリーは東啓介と有澤樟太郎、ローラは甲斐翔真と松下優也が演じる。また、チャーリーの靴工場で働くローレンも田村芽実と清水くるみのダブルキャスト。チャーリーのフィアンセであるニコラは熊谷彩春、靴工場の主任・ドンを大山真志と、メインキャストを一新。工場長・ジョージは、ひのあらたが過去公演から引き続き演じる。

ゲネプロは2日間にわたって行われ、1日目は東・甲斐・田村。2日目は有澤・松下・清水の組み合わせ。Wキャスト各人の違いや特徴などもあわせ、両日のゲネプロと囲み会見の様子をお届けする。(記事中写真は1日目の公演のもの)
過去作とは違った魅力を放つ4人の存在感
本作の舞台はイギリス。田舎町のノーサンプトンで倒産寸前の老舗靴工場を父親から継いだチャーリー・プライスが、ドラァグクイーンのローラと出会い、ドラァグクイーン向けのブーツを製造して工場を立て直していく物語だ。

楽曲を担当するのはポップの女王・シンディ・ローパー。1980年にデビュー(バンド・ブルーエンジェル)後、1984年に「Girls Just Want to Have Fun」をはじめとした大ヒットを何曲も生み出した。そのパワフルな歌声や歌詞、「自分らしさ」を貫く彼女の姿に元気をもらった人も多いだろう。本作は、シンディの前向きな歌詞(訳詩/森 雪之丞)を乗せた歌とともに進んでいく。
ストーリー展開は実に明快かつ軽快。シンディの歌のテンポのごとく次々にシーンが移り変わる。しかしついていけないことは一切なく、1幕の終わりまでが一瞬であるかのように時間が過ぎる。特に、ローラが圧倒的なオーラをまとって煌びやかな照明とともに登場する「Land of Lola/~ローラの世界~」からは時間が過ぎるのが速い。あっという間に1幕ラストの「Everybody Say Yeah/~みんなでYEAH!~」まで到達してしまう。

「Everybody Say Yeah」は、キンキーブーツを作ろうという方向性がチャーリーの中でかたまった意志表明の曲であり、ローラにとっては、引っ張り上げたチャーリーに同じ目線で「やったわね」とウインクしているような曲でもある。ベルトコンベア(トレッドミル)の上で下で、従業員たちやエンジェルスも巻き込んでのこの曲は、1幕終わりにふさわしい高揚感たっぷり。手拍子はもちろん、立ち上がって舞台のキャストたちとともに盛り上がりたいほどだ。
全編に渡って、曲の楽しさはもちろんだが、細かな芝居からも絶対に目が離せない。実家や親へ反発する気持ちとともにわずかな甘えのようなものが同居していたチャーリーは、苦境に立たされて1人の青年社長として立ちあがっていく。その成長する姿にぜひ注目してほしい。ローラは、いわゆる“男性的な服装”で化粧をせずに登場するシーンで、何とも所在なさげな様子を見せる。男性的な服装はローラにとってはアウェイであり、自分の本質とは異なる服装だ。演じているのは男性の役者なのだが「何となくしっくりこない……」と感じてしまうのは2人ともさすがの演技力。


菊田一夫演劇賞を受賞したばかりでノリに乗っている甲斐。甲斐のローラは、繊細さと優しさが際立つ。ヨロイや戦闘服とも言えるドラァグクイーンの服から「男性的な服」に着替えた時の頼りなさ、所存なさげな表情。高いヒールを脱いだからというだけではなく、身長や体が何回りも小さく見える。ドラァグクイーンの服に身を包んでいるシーンでも、表情や仕草に優しさと思いやりが滲む。サイモンにとって大きな“きっかけ”になったと言える白いロングドレスをまとって老人ホームで歌う「Hold Me in Your Heart/~心で抱きしめて~」は胸に迫るものがある。

松下のローラは芝居の遊びが多く派手で、くるくる大きく変わる表情や動きから目が離せない。ピンと張った透明感のある歌声はわくわくする気持ちにさせてくれ、大きな体を全身以上に使い、汗をきらめかせながら踊り歌う姿はほとばしる生命力をぶつけているかのようだ。特に、静と動、ピタッと止まる動きとともに激しさもある「Sex Is in the Heel/~SEXはヒールにある~」での盛り上がりと場を牽引する力は特筆に値する。激しいダンスのためか、つけまつ毛が取れるアクシデント(?)さえも、芝居に取り入れながら笑いに変えていたのはさすがの対応力だった。
東のチャーリーは、日本人離れした長い手足と舞台映えする高い身長から繰り出される伊達男っぷりが、無自覚な罪さえ感じさせる。あのチャーリーに心を込めて「ありがとう」と言われたら、ローレンでなくてもついキュンとして好きになってしまうだろう。無自覚に周りを振り回し、決めたことに突き進む力強さの中に傲慢さをほんのり滲ませる芝居があるからこそ、周りと対立してしまったときの内省の芝居との対比が際立つ。「Soul of Man/~真の男~」でのソロ歌唱にぜひ注目を。

有澤のチャーリーはとにかく真摯でまっすぐだ。傾いて倒産寸前、もう後がない会社を背負ってもうまく立ち回れない不器用さが魅力で、だからこそ、ローラと出会い新しい道を見つけたときの「これだ!」と言わんばかりの笑顔が眩しい。希望を見つけた、やるぞと歌い上げる「Step One/~第一歩~」の歌唱は実に気持ちよく、清々しい表情も相まって、聴いていて明るい気持ちにさせてくれる。この4人はいずれも身長180センチ以上。さらにローラ役の2人は高いヒールを履く。普段はどの舞台でも高身長勢に入る有澤が、囲み会見では小柄に見えたほどだ。これにより、チャーリーとローラの関係性に、過去作とはまた違った魅力が見える。三浦春馬、城田優、3度にわたってチャーリーを演じた小池徹平。3人とも、書いても書いても書ききれないほどの大きな魅力があり、その関係性でも観客を魅了してきた。そして今回オーディションで役を勝ち取った4人にも、新しくこのカンパニーに加わったキャストとして大きな魅力がある。
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