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INTERVIEW

映画『BAUS』の監督と主演俳優が明かす制作背景と映画観

甫木元空と染谷将太の青春回顧、変わりゆく映画館の価値に2人が思うことは

2025.03.28 18:00

2025.03.28 18:00

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映画は音楽アルバムの作り方に似ている

──本作の内容は三部作のような描かれ方でしたが、こういった手法をとろうと思った意図はありますか?

甫木元 元々が親子3代・約90年の話を2時間に凝縮するっていう脚本ではあるんですけど、生前青山さんから「大体2時間台が理想かな」みたいな話は聞いていて。映画がもつ時間の流れを大切にする監督でした。僕は教え子だったので、40分の作品を制作する授業を受けていて。40分の作品を2回転させたら80分で長編デビューできるよ、という趣旨だったんです。

映画は音楽のアルバムの作り方にちょっと似ているんですが、レコードのA面・B面のように、40分で何か物語が終わるとか、そこからまた違う展開に行くとか。映画を作る時間を自覚的に自分でコントロールしながら撮影をするために、40分という結構中途半端な尺を撮らせる授業だったんです。今回は終戦を迎えたところで、また違う映画が始まんなくちゃいけないなと思って。まあプログレですよね。青山さんがよく「一つのアルバムとして映画を観ることもできる」っていう話をされていたんですけど、自分がやるとしたらリズムを作って時代ごとに変えていくプログレをするしかないなって脚本を読んだ時に思いました。

──染谷さん演じるサネオは、周囲で様々なことが目まぐるしく変わっていく中で終始達観したテンションのキャラクターがすごく印象的でした。実在する人物でもあるサネオをどのように捉えて演じていましたか?

染谷 自分としては、自由な人間なんだけれども、ある種その劇場にとらわれている人間というふうに捉えていました。でも、サネオはこういう人なんだって決めつけて演じるよりかは、全体として一人の夢の中を旅するような話だとも感じたので、わりかし断片的でもいいのかなと思って演じていたと思います。

──監督は先ほど「プログレ」ともおっしゃっていましたが、舞台装置がキュッとしている中で、年月だったり映画館に関わる家族だったり、スケールの大きいものが描かれていて、その対比が素晴らしいと思いました。どこまで完成図が見えていたのでしょうか?

甫木元 青山さんが脚本を書かれた時から「赤い煙」とかは書かれていたんですけど、ある種SF的に伝記を描くというのはいいなと思って。これがSFだったら、いくら(時空を)飛んでもどんな空間でも受け入れられるじゃないですか。これは真面目な伝記ですが、そこにSFをぶつけようとしているのかなと感じて。おじいちゃんの回想録なので記憶の曖昧さみたいなものも含めて省略した美術になっていて、一面的なものしか見えない中で映画を描いていくほうが面白いかなと思いました。

──映画館の美術はすごく有機的に作っていらっしゃる印象がありましたが、館内のセットを見て染谷さんはいかがでしたか?

染谷 すごいいい場所だと思いましたね。実際にお借りした劇場も初めて行った場所だったんですけど、そこをちゃんと美術で飾っていて、中に入るとちゃんと地に足がついてるっていうのが面白いと言いますか。外とのギャップが演じる上でも面白かったですし、本当に「いい劇場だ」って素直に思えたのがすごい良かったですね。

──その劇場をあらゆるところまで使い尽くしていて。染谷さんが動いてくれたことでさらに有機的になったところはありますか?

甫木元 そうですね。年代的にも映画館が劇場との狭間にあるっていうか、映画を観るためだけに建築された建物ではなかったので、いい意味でカオスというか、僕たちが想像するよりいい加減で混沌としていたと思うんです。そういう迷路感を描けたらっていうのと、本来、人が過去を回想する時って断片的でパッチワークのようになると思うんですけど、断片的な物語のなかで、映画的な流れは役者さん一人一人のアクションでリズムを出して歌で一本筋が通せたらなと思っていました。

──中盤にあった、少年タクオがアイスキャンディーを持って走り回るシーンなんかは『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出したりもしました。染谷さんもあれだけ映画館を右往左往することってないですよね。

染谷 そう言われるとそうですね。楽しかったです。贅沢でしたね。

──そのほかの共演者には、鈴木慶一さんや峯田和伸さんがいらっしゃいます。バンドのボーカルでもある監督としては、大先輩にあたる方々ですよね。

甫木元 そうですね。皆さんミュージシャンですが、そこでの線引きはあまりないぐらい峯田さんも慶一さんもめちゃくちゃ映画をご覧になっているので。テンション感とかシーンの在り方についてそこまでお話してるわけじゃないんですけど、共通認識は最初からお互い一致していました。すごい面白かったですね。

峯田和伸演じるハジメと染谷将太演じるサネオ

──染谷さんから見て峯田さんはどんな方でしたか?

染谷 人見知り風でいて、今ここってなるとそれを壊してくるんですけど、また人見知りに戻る(笑)。距離感がグッて近づいたりワッて離れたりされる方で。でも兄弟役をやらせてもらう上で、一緒にいてめちゃくちゃ空気がいいと言いますか、隣に立たせてもらって勝手に自分が馴染んじゃうような、そういう佇まいをされていて。もちろんミュージシャンとしてもですけど、役者さんとしても自分は前から好きでしたので、一緒にお芝居ができて楽しかったです。都市伝説をよく話してて、オカルトの話をしてる時が一番喋ってました(笑)。

──思い出に残ってる都市伝説ありますか?

染谷 なんか瞬間移動した話とか(笑)。

──峯田さんがってことですか?

染谷 峯田さんが、です(笑)。本当っすか?って聞いたら「これ本当なんだよ!」って。

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表現者を本格志向する起点になった作品

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作品情報

BAUS 映画から船出した映画館

©︎本田プロモーション BAUS/boid

©︎本田プロモーション BAUS/boid

BAUS 映画から船出した映画館

2025年3月21日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
配給:boid、コピアポア・フィルム

2024年/日本/ヨーロピアンビスタ/116分

公式サイトはこちら

スタッフ&キャスト

出演:染谷将太 峯田和伸 夏帆
渋谷そらじ 伊藤かれん 斉藤陽一郎 川瀬陽太 井手健介 吉岡睦雄
奥野瑛太 黒田大輔 テイ龍進 新井美羽 金田静奈 松田弘子
とよた真帆 光石研 橋本愛 鈴木慶一
監督:甫木元空
脚本:青山真治 甫木元空
音楽:大友良英
エグゼクティブ・プロデューサー:本田拓夫
プロデューサー:樋口泰人 仙頭武則 関友彦 鈴木徳至
コ・プロデューサー:大野敦子 小山内照太郎
キャスティング・ディレクター:杉山麻衣
企画協力:青山真穂
撮影:米倉伸
照明:高井大樹
音響:菊池信之
録音:藤林繁
美術:布部雅人
衣装:宮本まさ江
ヘアメイク:菅原美和子
助監督:滝野弘仁
制作担当:飯塚香織
編集:長瀬万里
CG/VFXディレクター:潮杏二
原作:「吉祥寺に育てられた映画館 イノカン・MEG・バウス 吉祥寺っ子映画館三代記」(本田拓夫著/文藝春秋企画出版部発行・文藝春秋発売)
企画・製作:本田プロモーションBAUS boid 制作プロダクション:コギトワークス
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会

1992年埼玉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科卒業。2016年青山真治・仙頭武則共同プロデュース、監督・脚本・音楽を務めた『はるねこ』で長編映画デビュー。第46回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門出品のほか、イタリアやニューヨークなど複数の映画祭に招待された。『はだかのゆめ』(22)は、第35回東京国際映画祭Nippon Cinema Now部門へと選出。2023年2月には「新潮」にて同名小説も発表し、9月には単行本化された。2019年結成のバンド「Bialystocks」では、2025年4月に東京・国際フォーラム ホールA、大阪・フェスティバルホールでの公演も控える。映画・音楽・小説といった3ジャンルを横断した活動を続けている。

1992年9月3日生まれ、東京都出身。子役としてキャリアをスタートし、『パンドラの匣』(09)で映画初主演。2011年に主演をつとめた『ヒミズ』では、第68回ヴェネチア国際映画祭で日本人初となるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞し、国内外から注目を集める。その後、日中合作映画『空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎』(18)では主人公の空海を演じた。近年の主な出演映画は『きみの鳥はうたえる』(18) 、『最初の晩餐』(19)、『初恋』(20) 、『怪物の木こり』(23) 、『陰陽師0』(24) 、『違国日記』(24) 、『劇場版ドクターX FINAL』(24) 、『はたらく細胞』(24) 、『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメン VS 悪魔軍団~』(24)など多数。『竜とそばかすの姫』(21)、『すずめの戸締まり』(22)では声優としての出演している。

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