映画『BAUS』の監督と主演俳優が明かす制作背景と映画観
甫木元空と染谷将太の青春回顧、変わりゆく映画館の価値に2人が思うことは
2025.03.28 18:00
2025.03.28 18:00
映画監督・アーティストの甫木元空と俳優・染谷将太。カルチャーを愛する者にとって垂涎の組み合わせが、この春映画館で実現した。
“おもしろいことはなんでもやる”というコンセプトを掲げ、多くの文化愛が交わる場所として2014年まで営業されていた吉祥寺バウスシアター。映画『BAUS 映画から船出した映画館』は、吉祥寺という地で娯楽を届け続けたこの劇場を巡る人々の90年を描く。
物語の始まりは昭和初期。中心となるのは、活動写真に魅了され青森から上京してきた主人公のサネオ(染谷将太)、兄のハジメ(峯田和伸)、そしてサネオと出会い妻となるハマ(夏帆)。監督の甫木元は、大学時代の恩師・青山真治の逝去を機にその遺稿を引き継ぎ、躍動する映画館と街、そこで生きる家族の物語を完成させた。
映画館の存在意義が変わろうとする今、二人はこの映画に託したものとは。一つ確実なことがあるとすれば、この作品が「映画館に行く」という体験の価値を、特別に高めてくれるということだ。

染谷将太は染谷将太なんだよ
──お二人は今作で初タッグとなりますが、まずはそれぞれの印象を伺えますか?
甫木元空(以下、甫木元) 僕は大学入ったぐらいからちゃんと映画を観始めたんですけど、それこそ染谷くんが出ている映画を劇場に観に行っていましたし、自分の先生だった青山(真治)さんの作品に出ていたので、青山さんに1回「染谷くんってどういう人なんですか?」って聞いたことがあって。
染谷将太(以下、染谷) そうなの?(笑)
甫木元 そしたら「染谷将太は染谷将太なんだよ」って(笑)。
染谷 (笑)

甫木元 佇まいがすごくいいなと思っていて……なんて言うんですかね。いい意味で余白も作れるし、キャラクターの個性を尖らせなきゃいけない時は具体も抽象も役によって変えられるというか。作品をまず大事にしているっていうのがすごく伝わってくるなって思っていました。いちファンとして見ていた感じですかね。
──染谷さんはいかがですか?
染谷 自分も作品を観ていて、音楽を聴いた印象が先なんですけど、なんて誠実な表現をされる方なんだろうって思ってたんですね。で、初めてお会いしたら、なんて誠実な人なんだろうっていう(笑)。本当に人って出るんだなって。でも“人”が出せる人ってなかなかいないというか、それがやれちゃう甫木元くんは素敵だなって、改めてお会いして思いました。本当にいい男なんですよね(笑)。現場の皆さんもそういう目で監督のことを見てるというか、甫木元くんが一緒にいていい空気になっていくのはとても魅力的だなと思いました。
──いい褒め合いだ(笑)。お二人にとって「吉祥寺バウスシアター」という場所の思い出や印象も聞かせてください。染谷さんは通ってらっしゃったとのことですが。
染谷 自分は学生の時とかに本当によく行ってました。改めて「あの時間って何だったんだろう」って思い返すと青春でしたね。映画を観に行ってるんですけど、“遊びに行く”っていう感覚のほうが強くて、すごく自分の青春を感じる場所です。

──あのアーケード街の中にある異空間っていうのもよかったですよね。
染谷 そうですね。ちょっと狭まった入口の奥に広がっている世界はすごく素敵でした。
甫木元 僕は大学に入ったのが2010年なので本当に後期だけですけど、爆音上映とかで何度か行ったりしてました。不思議と映画館までの道のりが本当に印象に残る映画館ですよね。映画の思い出と場が一緒になっているというか。他の劇場とはまた違う、不思議な体験だなっていうのは覚えてます。
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