主演作『早乙女カナコの場合は』で懸命に生きる女性像を体現
過去を肯定し、人を愛することで救えた自分。今の橋本愛が紡ぐ「人間って」に続く言葉
2025.03.21 17:00
2025.03.21 17:00
20代は大丈夫じゃないことでも全然大丈夫
──今年の1月に29歳になりました。20代ラストイヤーですが、何か特別な気持ちはありますか。
それがなくて。インタビューでよく聞かれるので何か答えなきゃって考えるんですけど、特に何もないんですよね(笑)。
あ、でも夢は見ました。「明日から30歳になる。嫌だ!」という夢を。で、起きた瞬間、「え、どうでもいい」ってなっちゃったんですけど。そういう夢を見るということは、ちゃんと怖がっているもう一人の自分がいるということだから、その不安や恐怖とはしっかり向き合うようになりました。

──不安や恐怖の正体は言語化できましたか。
一つは、死に対する恐怖。歳を重ねることで死に向かっていくことに不安を感じているんだろうなって。次は、不安を感じているのは私ではなく、社会だということ。私のものではない恐怖に振り回されているようなところもある気がします。そしてもう一つは、体の状態が変わっていくことに対する、変化と喪失への不安。
漠然と捉えていると、ちょっと居心地悪く感じちゃうんですけど、こうやって一つ一つ紐解いていくと、なんだ、私にとってあまり重く捉えるものではいな、ということに気がついて。言っても私はまだ29年しか生きていない。恐怖心が芽生えたところで、ちゃんと自分の今いる場所に立ち返って、目の前の今を積み重ねていくしかないんです。きっと人生ってその繰り返しのような気がしますね。
──20代を振り返ると、楽しかった、しんどかった、忙しかった、いろんなものがあると思いますけど、どんな言葉が真っ先に出てきますか。
うーん、うーん(と、しかめっ面をする)。
──すごい顔になっていますよ(笑)。
たぶん答えは「ちょっと汚い」(笑)。やり直せるなら全部やり直したいと思うぐらい、自分の至らないところが目についてしまうんですけど、その中でもちゃんとやれたなと思うこともたくさんあるので、少なからず得られた大切なものを30代でどれだけブン回すか(笑)、ということなのかなって。

──橋本さんが演じたカナコはまさにその20代の渦中にいる人物です。そして、この映画をご覧になる方の中には同じようにジタバタともがきながら20代を送っているお客さんもたくさんいると思います。20代の出口に立つ身として、声をかけられるならどんな言葉を贈りたいですか。
最近すごく勇気づけられた言葉があって。「大丈夫じゃないことが大丈夫」っていう。
──いいですね。
その言葉がすごくしっくりきて。「大丈夫じゃない状態で全然大丈夫だから」って言ってあげられたら、きっと過去の自分も喜ぶだろうと思うので、その言葉にします。
──橋本さんは常に社会課題にアンテナを張り、自分の考えを自分の言葉で発信している印象があります。まもなく30代を迎える一人の大人として、どういう社会にしていきたいという思いがありますか。
すべての人の当たり前に保障されるべき権利がちゃんと保障される社会であること。それが大前提です。私、すごく大きな夢として「世界平和」を掲げていて。そこに向けて、自分に何ができるのかを一生かけてやっていくんだと思います。そのためには必要な知識をちゃんと学んで、自分の言動を日々ブラッシュアップしていかなくちゃいけない。そしてそれにはちゃんと実態を知らないといけないので、いろんな人の声を聞くことを今いちばん大事にしています。

──いろんな人の声を聞くというのは、直接人と会ったり?
それも大事ですけど、私はネットを結構見ます。一時期、自分の心の健康のためにネットニュースやTwitter(現X)をシャットアウトしたことがあったんですけど、逆に世相がわからなくなって失敗したなと思ったんですよ。今の人たちの生の声って、街を歩いていても聞こえてこない。ちゃんと付き合い方さえコントロールできれば、私はネットって必要なものじゃないかなと思います。
──わかります。僕も何か議論が起きたとき、Xの引用ポストを見ます。そうすると、賛否いろんな声が見られるので。
そうそう。だから、私の中でXは資料として活用しています(笑)。
──それでは今、29歳の橋本さんが「人間って」のあとに言葉を続けるとしたら、どんな言葉を紡ぎますか。
人間ってわりと愚かで、それでも美しい、って言いたいです。本当にそうなのかはまだわからないけど、でもそう言いたいなと思います。
