映画『世界征服やめた』に込めたもの、求める仲間像とは
「大事なのは、現場で何を感じるか」北村匠海×萩原利久×藤堂日向が向き合った表現の究極
2025.02.09 17:00
2025.02.09 17:00
持っている熱情のすべてを懸けて演じなければいけないと思った
──今回のキャスティングで注目なのは、星野役を演じる藤堂さんの抜擢です。北村監督は、藤堂さんについて「役者として生きたいという彼の渇望を目の当たりにして、それを撮りたいと思った」とおっしゃっていましたね。
北村 役者って今この日本だけで見ても本当にたくさんいるわけですよね。でも、全員に平等にチャンスが与えられるわけでもない。その数少ないチャンスがオーディションという場だったんですけど、コロナによってそのオーディションの数さえ減っている時期がありました。
対面で芝居を見てもらうことさえできない時代に、僕と日向は日常を共有していて。『東京リベンジャーズ』という作品で彼と一緒だったんですけど、座長として、タケミチとして現場にいる僕に、彼はずっとついてきてくれた。そんな彼が、芝居をしたいという欲求が叶えられないのを目の当たりにしながらも、できることは当時の僕には何もなくて。今回この映画の企画が立ち上がったときに、星野という役を日向にやってほしいと思ったのは、日向の持つ芝居への渇望と、星野の持つ生きることへの渇望が僕の中でリンクしたからでした。
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──藤堂さんはどうですか。今回の現場に立ったとき、渇望を持つ自分だから湧いてきたものはありましたか。
藤堂 たぶんこういう渇望って芝居をする機会を与えてもらったから満たされるものではなくて、正直、その渇望を芝居に上手く利用できたという感覚も自分の中ではないんです。それくらい渇望というのはきっとずっと向き合い続けるものだと僕は思っています。
生きていく限り、人生には悲喜こもごもあって。生活を営む中で思い抱いた感覚や感情のすべてを使って役者は表現をしないといけない。星野という役は、自分の持っている熱情のすべてを懸けて演じなければいけないと思ったし、それに関しては自分なりにやり遂げることができたんじゃないかという手応えはありました。
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北村 僕は今回日向を見ていて、役者と役との出会いってこういうことだよなと改めて思いました。どんなに熱をもって臨んでも役と出会えないことはたくさんある。自分自身、8歳の頃からたくさんオーディションを受けてきましたが、そのたびに僕はここで芝居を見てもらってるんじゃない、オーディションというのは役との出会いの場なんだと痛感してきました。
なかなか望むような役と出会えない中、日向は星野という役と出会った。その出会いは、日向自身が自分の力で見つけた光でもあり、その光を掴んで離さないでほしい、という願いもあります。そして、僕もまたこんな役との出会いを経験したい。一人の役者として、今回の日向と星野の出会いにはある種の羨ましさを感じました。
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萩原 星野という役を演じるには、膨大なエネルギーが必要だと思うんです。自分の中にあるものを燃やし続けなきゃ、星野はできない。それには底知れないエネルギーが必要で、日向くんはそのエネルギーをちゃんと蓄えている役者さんだなと思いました。
僕がそう感じたのは、クライマックスの屋上のシーンです。あのシーンをやったときに、それこそ「世界征服やめた」を初めて聴いたときと似たような感覚が湧いてきたんです。あそこで星野はひたすら言葉を発し続ける。しかも会話でもない。ただひたすら一人で喋り続けるだけ。周りから着火剤をもらえない中、エネルギーを自発するしかない。技術的にもなかなか難しいシーンだと思います。
僕はそれを彼の後ろから見ていましたが、すごく良かったんですよ。きっとあの光景は、僕が演じた彼方の視点しか見られない姿で、広い空の下、一人で立って燃え続けている日向を見て、すごく素敵なものを見させてもらっているなと思った。不可思議/wonderboyさんと同じ、表現者の究極形というものを感じた場面でした。
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藤堂 あのシーンは……そうですね、僕はすごく考えすぎちゃう人間なんですよ。今回の撮影でも、一度匠海に相談したことがあって。そのときに言われたのが、「1回止まろうか」という言葉でした。たぶんもうすでに行きすぎちゃっていたんでしょうね。
無になりたくて、真夜中、ずっとホワイトノイズを見てて。はたから見たらめちゃくちゃ不審者なんですけど(笑)。それで無になってからもう一度台本を読んで、自分が何を感じたのか、全部書き出していたんです。そういうことをやっていたら「止まろう」と言われて。
北村 そういうことじゃない、と(笑)。
藤堂 でもそういう中でつくれた引き出しというのはあったかなと思っていて。その引き出しの中にあるものを出すか出さないかは現場で決めようと。出せなくても全然良かったんです。自分が衣装を着て現場に立ったとき、何を思うか。その思ったことをただやろうという気持ちで挑みました。
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