映画『世界征服やめた』に込めたもの、求める仲間像とは
「大事なのは、現場で何を感じるか」北村匠海×萩原利久×藤堂日向が向き合った表現の究極
2025.02.09 17:00
2025.02.09 17:00
近年、プレイヤーである俳優が先頭に立ち、企画やプロデュース、監督業に進出するケースが増えつつある。北村匠海もその一人だ。
2月7日に公開された短編映画『世界征服やめた』で企画・脚本・監督に挑戦。10代の頃に強い影響を受けたというポエトリーラッパーの不可思議/wonderboyの同名楽曲を原案に、社会の中でもがく若者の叫びを映画に焼きつけた。
記念すべき監督デビュー作でタッグを組むのは、盟友・萩原利久と藤堂日向。こんな世界で生きる意味なんてあるのか。絶望の中、差し向けられた銃口が一筋の光となって今、未来に放たれる。
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不可思議/wonderboyが奏でる言葉の魅力
──不可思議/wonderboyさんの『世界征服やめた』という楽曲を聴いて、みなさんはどんなことを感じましたか。
藤堂日向 僕は不可思議/wonderboyさんがきっかけで初めてポエトリーリーディングというものにふれたんですけど、言葉の強さを感じましたね。普通の音楽はメロディに歌詞を乗せて言葉を紡いでいくものだと思うんですけど、不可思議/wonderboyさんは言葉選びが鮮烈で、何か僕の心にほとばしるようなものを伝えてくれた印象がありました。
初めて聴いたのが、ちょうどコロナ禍のときで。みんながすごく辛い時期だったと思うんですけど、僕もご多分に漏れず精神的にかなりやられていて。だからこそ不可思議/wonderboyさんのワードチョイスが響いた、というのはあるかもしれないです。
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萩原利久 僕はこの作品のオファーをいただいたときに、匠海から聴いてくれと言われて聴いたんですけど、衝撃でした。言葉を表現する職業をしている身として、こんなにも純度の高い言葉を発する人がいたんだって。衝撃すぎて最初に味わったその感覚をうまく言葉に定められないくらいでした。
それでもあえて僕の言葉で言い表すなら、不可思議/wonderboyさんという人は究極の表現者。多くの人が言葉で表現するときに、何かしらの色や理由をつけようとしてしまうんですけど、不可思議/wonderboyの言葉はすごくリアルでナチュラル。言葉というものを、言葉通りに、ありのまま差し出すことができる、表現者の究極形みたいな人だと思います。
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──北村監督は、未来に希望を持てなかった時期に、「世界征服やめた」を聴いて、自分の伝えられなかった気持ちが言語化されたというような趣旨のコメントをされていました。
北村匠海 僕は8歳のときからこの世界にいて、学生の頃から、学校という社会とは違うところで生きていると感じていました。家族という拠り所はあったけど、この先に正直絶望を感じていて、ある意味、僕の人生はずっと絶望と戦い続けているようなものでした。
学校という社会の中ですら馴染めずはぐれているような自分が大人になったとき、一体何が希望へと導いてくれるのか、わからない時期が続いて。そんな中で出会ったのが、不可思議/wonderboyでした。僕は彼に生きるということを教えてもらったんです。
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中でも「世界征服やめた」は、僕が人生で一番救われた曲。たとえば「人生はきっと流星群からはぐれた彗星のようなもので 行き着く場所なんてわからないのに命を燃やし続けるんだよ」という歌詞があるんですけど、僕はこの歌詞を聴いたときに、誰しもが必ず光り輝いているわけではないのかなと感じたんですよ。人によってはそれを悲しく思う人もいるかもしれないけど、僕はむしろほっとしたというか。もしそうであるならば、僕がこれから出ていく社会というものは、そんなに居心地の悪いものではないのかもしれないと思えた。
実際、大人になってみると、やっぱり社会というものがわからない時期が続いて、僕は大人として戦うことになったんですけど、この楽曲に出会えたことによって救われたという事実は間違いないですし、その恩に対して、おこがましい話ではありますが、何か形として返せたらな、と17で初めて「世界征服やめた」を聴いたときから、ずっと考えていました。
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