『アンダーニンジャ』で初参加した福田組で得たものとは?
ターニングポイントを重ねて大きな夢に、山本千尋が語る“できることをする”という喜び
2025.02.07 18:00
2025.02.07 18:00
自分の中では全部がターニングポイント
──ここからは作品から離れて、山本さんについて教えてください。山本さんはこれまで中国武術で数々のメダルを獲得しています。武術の経験はもちろん、アクションなどの技術面や体力面で生きていると思いますが、精神面や考え方などの面ではどのように生きていると思いますか?
すべて武術に通ずるところがあると思っていて。例えば……武術では剣や槍といった武器を使うのですが、すべて神秘的なものに例えられるんですね。剣だったら「鳳凰のごとく」、槍だと「龍のごとく」って。龍や鳳凰はこの世の何かではないものですが、イメージして戦う。それはまさに演じることと同じで、“私じゃないけどいるかもしれない人”になる。その考え方は武術から来ているのかなと思います。そのほかにも精神の安定や、物事への向き合い方などすべて武術で得たものなのかなと思います。
──ちなみに山本さんは普段から精神は安定しているほうですか? それとも落ち込んだり、怒ったりすることも多い?
落ち込むことはありますね。切り替えが早いタイプではないので、落ち込んだらとことん落ち込もうスタイルで、変に「元気出さなきゃ」とは思わないようにしています。「自分にとって落ち込む出来事だったんだな」と受け入れる。落ち込んだときというのは、そのときに周りにいてくれる人のありがたみを感じる機会でもあるので、割とそのままでいようと思っています。

──落ち込んだときの癒やしは、やはり愛犬?
はい、犬ですね。あとはご飯と運動。甘いものを食べて、そのぶん体を動かして、犬と遊ぶ! そしたら次の日には忘れていたりします。
──山本さんは2013年に俳優デビューして以来、さまざまな作品に出演されてきました。ターニングポイントになった作品や瞬間を挙げるとしたらいつになりますか?
うーん……結果的に全部つながっているので「これがターニングポイントだ!」というものはないんですよね。例えば三谷幸喜さんの作品(『誰かが、見ている』)で最初にコメディをさせてもらったことが今回の『アンダーニンジャ』につながっているかもしれないし、武術をしていたからアクション作品にいろいろ出させてもらっているんだろうし。だから自分の中では全部がターニングポイントだと思っています。大きくステップを踏めるタイプではないので、コツコツとターニングポイントを稼いでいきたいなと思っています。小さいターニングポイントを重ねて、「結果的に大きかったね」と言えるようになるのが目標です。
──では、お芝居の面白さは、始めた頃と今で変化していますか?
変わっています。始めた頃はとにかく楽しくなくて。
──楽しくなかったんですか?
はい。何をしているのかわからなくて、見よう見まねでしかできなかった。でもそれこそ『誰かが、見ている』で初めてコメディに挑戦させてもらったときに、“お芝居って受けるものなんだ”ってわかって。「自分だけでやっていたら面白くないよね」と気づきました。そのときのお父さん役が、それこそ二朗さん。二朗さんは自由にお芝居をされている中で、私の芝居も受けてくれた。そこから「お芝居って楽しいんだな」と思えるようになったんだと思います。

──そこでコメディを面白いと思ったと。
はい。それまでは自分と戦うような役柄が多かったこともあると思うんですけど。競技で言うと、それまで個人競技しかやってこなかったけど、『誰かが、見ている』で初めて団体競技の楽しさがわかったという感じです。
──実際にそれまで山本さんがやられていた武術も個人競技ですもんよね。
はい。だから“ものごとは個人でどうにかするものだ”と思っていたところもあったんだと思うんです。でも、お芝居はそうじゃないんだよって教えてくれたのがコメディだったのかなと思います。
──今後、挑戦してみたい役柄や作品はありますか?
いっぱいありますが、そのときいただいた役が自分のやりたかった役なのかなと思います。そのときに作り手の方が「これを彼女にさせたい」と思ってくれたものが正解なんじゃないかなと思っていて、いただいたものを一生懸命演じるというのが今の私の考えです。

──始めた頃はお芝居を楽しく感じられなかったとのことですが、役者の道でいこうと決めたタイミングはいつだったのでしょうか?
それで言うと、今も決めたわけではなくて。自分の可能性の一つとして、俳優をやってみたかったからやっているという感じなんです。今はもちろん俳優業での夢もありますし、実は武術での夢もあります。よく「武術で世界チャンピオンになったから、夢が叶って女優になったの?」と言われるのですが、武術もまだまだ夢の途中で、私の目標は、ジャンル関係なく、引き出しを増やしていくこと。その中で自分のなかでできることをするということが喜びなんです。
──差し支えなければ俳優業での夢を教えてください。
ゴールはないですが、いただける役があるのであれば、いつまでも続けたいなと思っています。アクションもたくさんやらせてもらっているので、50代になっても2段蹴りとかができるように鍛えておきたいなと(笑)。そういうものをコツコツ積み重ねて、ずっと続けていられる俳優でありたいなと思っています。
──ちなみに武術での夢は?
女優業をさせていただくようになってから、自分の中で武術の魅力が深まっていて。なんなら選手時代よりも今のほうが好きなんじゃないかって思うくらいです。でも年齢的に選手にはもう戻れないので、今は教える側として、育てていく楽しみをもっともっと知っていきたいなと思っています。伝えられる人が少ない競技だからこそ、それが自分の使命なのかなって思うのでそれをずっと続けていきたい。私は死ぬまでずっと武術と一緒なんだろうなと思っています。

映画『アンダーニンジャ』場面写真 ©︎花沢健吾/講談社 ©︎2025「アンダーニンジャ」製作委員会