映画『雪子 a.k.a.』主人公に重ねた自分自身と“経験”への想い
「柔軟性が幅になればいい」山下リオが何でもやる理由、俳優として目指すビジョン
2025.02.06 18:00
2025.02.06 18:00
1人では何もできない、ということを今すごく実感しています
──プレスリリースを拝見すると、監督も雪子の設定にご自身のバックボーンを重ねられていたり、雪子にすごく思い入れがあるのがわかりますよね。雪子像は現場で話し合いながら作り上げていった感じですか?
現場で特に話し合うことは無かったですが、事前に沢山意見の交換をしつつ、台詞の細かいニュアンスや、キャラクター像を作り上げていきました。というのも、私自身は14歳からこの仕事を始めているんですけど、その前から学校にうまく馴染めず、不登校だった時期もあったりして、学校そのものにトラウマのような感覚があったんです。だからこそ、私が当時いてほしかった存在を雪子先生に投影できればいいなと思いました。人気者では無いけれど、目を見れば安心できるような優しい先生。最後にセッションするラップのリリックは特に、言葉を押し付けたくもなかったので、監督とも話し合いを重ねました。あのシーンは、不登校児側だった自分自身と向き合うようでした。
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──この作品の中で描かれている迷いや不安のようなものがすごくリアルに感じたのですが、山下さんご自身としては改めて、“雪子”という役柄をどう思われますか?
撮影中の私は、雪子そのものになっていたと思います。それは、何か作り込んだものでもなく、本当に自然に。でもそれができたのは、準備段階から草場監督が丁寧な現場づくりをしてくださったからだと思います。中でも、教師として生徒役の子供たちと丸一日学校での生活を体験したことがかなり大きかったです。先ほどお伝えしたとおり、私が大嫌いだと思っていた学校が、生徒のみんなのためなら通いたいと思わせてもらえたし、この子達に嫌われたくないなとか、教師として上手くやれてるのかなとか、みんなを愛おしいと思う程、教師の軸はできるけれど、不安は増していく。雪子は基本的に受け身なので。キャストの皆さんのお芝居によって、どんどん影響されて、雪子の心がゆらゆら動くのを実感していきました。
長崎ロケもそうです。その場その場で感じることが今回、あまりにも多かったんです。雪子とリンクしすぎて、途中で自分の居場所がわからなくなるというか、雪子としてカメラに向けられるのも嫌になるくらい(笑)ドキュメンタリーみたいな感覚でいました。ただ、ひたすら湧き上がってくる「雪子の感情」を受け入れて一緒に生きてみよう。ラストまでシンプルに感情を重ねていけば、景色がもっと変わるはず……そう信じて撮影していた感じです。
──実際に完成した映画を観たときはいかがでしたか?
ラストカットの雪子の表情に、自分でも驚きました。台本の段階では想像もできなかった顔をしていて……。改めて雪子を演じられたことを誇らしく思いましたし、純粋に素敵な作品だなとも思いました。近年稀に見ぬ、優しい映画になったんじゃないでしょうか。このスタッフ・キャストだから生まれた、奇跡の瞬間が沢山詰まってます。私にとって、宝物のような作品になりましたし、私自身もこの映画に背中を押してもらいました。
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──先ほど、音楽劇やミュージカルの経験というお話もありましたが、2024年は『DEATH TAKES A HOLIDAY』、2025年は『ヒーロー』と、本格ミュージカル出演が続きますね。
昔からミュージカルに憧れていました。21歳の時、オーディションで勝ち取った初舞台が、ミュージカル作品だったんです(2014年『ファントム』)。でもあの時は、せっかくいただいたチャンスを思うように掴めなかった気がして……その後オファーもなかったので、公演後も後悔や葛藤があったりしたんですが、またいつくるか分からないチャンスのために、ボイトレは続けていました。そうしているうちに、昨年『DEATH TAKES A HOLIDAY』というミュージカルを10年ぶりにやらせていただきました。自分がシアターオーブに立てる日が来るなんて、夢のようでしたね。
──『DEATH TAKES A HOLIDAY』は作品としてもすごく好評でしたが、山下さんについても高評価がSNSでたくさん見られた印象でした。
私は映像の世界がメインで育ってきたので、やはり違うジャンルにお邪魔させていただく感覚があったりして、気が引き締まる想いでした。それでも私をヒロインに選んでくださったのだから、自分のこともカンパニーのみなさんのことも信じて突き進んでました。稽古中から沢山恥をかいて、失敗もさせてもらえる環境でしたし、できないことは早々に認めて努力するしか近道はないなと思いました。『DEATH TAKES A HOLIDAY』は、音楽劇『死んだかいぞく』との公演も縫いながらの稽古だったので、本当に大変でしたが、色んな方にサポートしていただきながら少しずつ成長できたかなと思います。
それでも幕があくまではドキドキでしたし、マイクに乗った声と稽古での声の差とかにショックを受けて、リハーサルで膝から崩れ落ちたりしましたけどね(笑)。「もう無理だ! 私のこんな声をみんなに聞かせられない」って。でも、本番はやってくるわけで……もう本当に新人女優に戻ったような感覚でした。怒涛のように過ぎていく日々の中で、『DEATH TAKES A HOLIDAY』も、それこそ『雪子 a.k.a.』もそうですけど、独立後からの自分を振り返ると、本当にいろんな人に支えていただいているなというか、1人では何もできないんだな……というのを今、すごく実感しています。
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──やはり、大変は大変だったんですね。
そうですね。でも、やってもないのに「できない」っていうのが嫌なんです。大変なことが経験したくても、できなかった時代もあるので、ハードルが高ければ高いほど燃えますし、自分の成長につながるので、有り難く受け取るようにしてます。一応18年ぐらいの芸歴になりますけど、まだまだ知らないことばかり。満足したら終わりだと思っているので……全部の経験がいつかなにか、俳優の仕事に繋がるとは思っているので、プライベートも含め、いつも「何でもやります」という気持ちでいます。
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