2024.12.25 18:00
2024.12.25 18:00
「クロール」はもがいてる自分に向けた曲
──その変化の過程でバンドとしていつまでも同じ形で続けていくっていうことが難しくなっていったということなんでしょうね。そういうズレというか、方向の違いが見えてきたのはいつ頃だったんですか?
片桐 今年、『throw』っていうアルバムが3月に出てから、次のものをどうしていこうっていう大きな話し合いがあったんですけど、モード的にはその『throw』の段階から出ていたと思うんです。「最終電車」とか「Decadance」とかの楽曲で。
ヤスカワ だから2023年の2月とか3月ぐらいから、ポツポツとそういうのは出てきていて。で、「これはもう無理かな」ってなったのが『throw』のときでした。
──『throw』ってミニアルバムはすごくいい作品でしたけど、同時に今にして思うとやっぱり過渡期的な感じもすごくあったと思うんですよね。
片桐 『throw』はまさに自分のかっこいいと思うもの、好きなものを詰め込んだアルバムだったと思っていて。自分が今やりたいことをすごく詰め込んだので、それぞれ曲的にはバラバラなものもいっぱいあるなって。
ヤスカワ でも保守的な曲があるんですよ、『throw』には。「Heart Beat」とか。それまでのHakubiの系譜というか。
──当時「原点回帰」とも言っていましたもんね。
ヤスカワ そう。でもそのほかの楽曲はわりと音楽的に挑戦しようぜみたいなマインドの曲だったんで。そういうところでも、レコーディングのときも「向いてる方向がちゃうかも」みたいなのはあったなと思います。
片桐 だから「Heart Beat」だけ浮いてしまったというか……。
ヤスカワ でもまあ、これは難しい話ですけどね。Hakubiの曲が好きな人は「Heart Beat」みたいな楽曲が好きな人は多かったと思うんですけど、俺と片桐としては「違うことがしたいかな」みたいな。
──ああ、だから「Heart Beat」が浮いてるって感じちゃうっていうこと自体がそういうことですもんね。
片桐 うん。でも、あれがたぶんHakubiなんだろうなとも思ってたし。
──Hakubiって本当に最初から確固たる世界観というか色をもったバンドだったから、逆にそこからどう脱皮していくかという難しさはあったのかもしれないですね。でもそれよりも新しい方向に向かいたいっていう気持ちが勝っていったっていうのがこの1、2年の変化だったのかなと。
片桐 マインドは、たぶんそんなに変わっていないんですよ。伝えたい内容というか、音楽にしたい核みたいな部分は。自分の「ここの部分がHakubi」っていうのが自分のなかにあって、それは全然変わっていないんです。でもその出し方、表現の仕方みたいなものが、たくさん音楽を聴いて、その音楽をまた深めていくことで変わっていったんだと思います。だからこれからのHakubiとしては、形は変われど気持ちは変わらず、伝えたいことは変わらず、より自分のやりたいことに素直にやりたいなと思います。もともと、脱退が決まる前に「クロール」という楽曲はほぼできてたんですけど、そういう意味ではほんまにタイミングよくというか、さらに自分の気持ちが乗っていった感じがしますね。
──書いたときは、どういう気持ちから生まれた曲だったんですか?
片桐 変な話ですけど、渋谷のスクランブル交差点とかあるじゃないですか。ああいう人がたくさんいる中で急に悲しくなったり、「うわー」って言いたい時があっても、人の目が気になって言えないじゃないですか。普通に学校とかでもそうだと思うんですけど、そういう気持ちを吐き出せない自分がいて、でも本当は「叫んでしまいたいよな」みたいな。「人前とか気にせずに泣いちゃいたいよな」みたいな気持ちがあって。その「本当はあの時やりたかったんだよな」っていう気持ちを歌にしたというか。「やっちゃっていいんじゃない?」みたいな自分もどこかにあって、その自分が私に向かって言ってくれてるような曲を作りたいなと思って、そこからさらに深めていったという感じでした。
──なんか、自分で自分のケツを叩いている感じがありますよね、この歌詞。
片桐 ああ、そうですね。捉え方によっては「私がそういうことができるようになったから君たちも頑張ってよ」みたいな感じに捉えられる可能性もあるなと思ったんですけど、これは本当に「自分はまだできないけど、でもちょっとやってみよう」みたいなことなんです。叫ばなくてもいいけど、友達にポロッと言っちゃってもいいんじゃない?みたいな。そういう気持ちになれたらいいなと思って。音源を聴いた人からは「明るい」って言ってもらったりしたんですけど、それこそMVとかライブとかを観てもらうと「そういうことだったんだ」って気づいてもらえると思います。進んでる感じあるけど、まだもがいてるよなって。
──平泳ぎでもバタフライでもなく、クロールですからね。一生懸命手と足を動かして。
片桐 そう、バタ足で(笑)。
──だから明るいだけではないけど、エネルギーはすごくありますよね。
片桐 うん、ありますね。
ヤスカワ 確かに、最初にデモを聴いたときは「めっちゃ明るいな」って思った。でも、これからやっていきたいのって「ナード」な方向だったんで、コード進行とかをいじってそっちに持っていくみたいな作業をしたんです。いい曲やなって思ってたんで、制作に関してはつまずくことなくいけましたね。
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