2024.10.19 12:00
2024.10.19 12:00
ドラマで個性的な役を演じていたかと思えば、ミュージカルで見事な歌唱を披露する……2009年に女優デビューしてから着実にキャリアを積み上げ、近年は映像に舞台と幅広くさまざまな顔を見せてくれている葵わかな。10月16日(水)に開幕した世田谷パブリックシアターでの舞台『セツアンの善人』では、一人二役という大役に挑む。心優しき女性と、彼女が生み出した架空の冷酷無比な男性、その2人を演じるという難役だ。
劇作家ブレヒトの代表作『セツアンの善人』と舞台というものへの思い、自分自身の演技の変化からプライベートまで。今作の稽古を目前に控えた某日、彼女の“現在地”について語ってもらった。
白井晃さんとなら見たことない景色を見れると思った
──『セツアンの善人』への出演オファーがきたとき、葵さんとしてはどう思われましたか。
実はもともと、演出の白井晃さんとお知り合いになるきっかけが以前あったんです。そのときに「何か一緒にやりたいです」というような気持ちをお伝えさせていただき、そこから時間を経てオファーいただいたのがこの『セツアンの善人』なんです。
──白井さんとのお仕事は、葵さんの方からの希望だったんですね! しかしこの『セツアンの善人』、エンターテインメントでありながら非常に文学性の高い作品でもあると思うんです。難しさやプレッシャーは感じますか?
……難しそうですよね?(笑)。ただ白井さんが、この『セツアンの善人』という作品が今の日本の状況にとても合うだろうと思った、とこの前ご一緒したときにおっしゃっていたんです。それは確かにそうだなと思えたんですね。そして、これも白井さんがおっしゃっていたんですけど、ブレヒト作品の素晴らしいところは、テーマは重いけれどもそれをきちんとエンターテインメントとして届けられるところ、と。今言ってくださったように「エンタメ」なんですよ。それってすごくいいなと思ったんです。もちろん、実際やるとなると技術面も含めて、中身をしっかり作っていかないといけない。完璧なトータルバランスにした結果、お客様がそういう評価をしてくれる……そういう作品だと思うので。
──ハードルは高くても、やりがいは感じると。
きちんとお客様に伝わるよう、そのレベルを目指していきたいなと思います。
──白井さんと仕事をしたいと思った理由は何だったんですか?
自分が舞台をやるようになってからお名前を聞かない日はないですし、第一線で走られている方なのはもちろんですが……実際白井さんの舞台を観に行ったときに感じていたのは、キャスティングにしても題材にしても常に「新しいこと」にトライされている印象だったんですね。この人のこういう新たな一面を引き出したいとか、常に新しい何かを1つテーマにされているような印象を持っていて。もしご一緒することができたなら、まだ見たことのない景色を見ることができるかもしれないですし、見たことがないような自分自身を発見できるかもしれない。そういうきっかけを与えてくださる方のような気がしていたので。
──ご自身の「新たなところを見つけたい」欲求があったと。それはいつ頃から感じられてるんですか?
……ずっと、かもしれないですね。私の仕事は、現場も作品もいつも違うわけじゃないですか。もし似たような役があったとしても、作品が違えばその役は同じではない。だからやるからにはその役、その現場ならではの「なにか」を持っていたいんです。
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