2024.06.11 18:00
2024.06.11 18:00
演じることでできることはあると信じている
──「彼女は、きっと、あなたのそばにいた」が本作のキャッチコピーです。現実社会でも、杏に近い境遇の方はいると思うのですが、演じるときにそんなことも意識下にありましたか。
演じているときは、杏一人に向かっていました。ただ、杏に対して誠実でいたいということは、同時に杏に近い境遇の人たちのことも考えることになる。そこについては撮影中というより、公開が近づく今このタイミングのほうがより深く意識を占めていますね。
──この作品を観て、単に杏が可哀想だったで終わるのは、何だか他人の人生を食いものにしている気がして。私たちは、杏や、杏のような人たちに何ができるんだろうということを、ずっと考えています。
できることはあると思うんです。たとえば、多々羅(演:佐藤二朗)がやっているようなサークルに来ている人たちだったら、こちらから探してアクセスできるし、そこから直接的に支援もできる。ただ、私たちは杏のモデルになった人の記事を見つけて、とても歯がゆい思いをしたときに、その人たちを直接的に助けるんじゃなくて、映画にすることを決めた。そのことに意味があると信じないと、この作品はつくれませんでした。直接的に支援をするのも、映画をつくるのも、より良い未来にみんなで行きたいという気持ちは同じ。この世界にいる私だからこそ、演じることを通してできたことはあったと今も信じています。
──河合さんはもともとダンスがお好きで、表現することを仕事にしたくて、この世界に入られたと聞いています。実際にプロとなり、こうした作品に出演して、表現することの意義や使命は、あの頃思っていたものから変わってきましたか。
全然違いますね。最初は自分が表現することが楽しいでしかなかった。もちろんそれがダメだとは思わないし、今も体を使ってパフォーマンスすることが楽しいという思いはずっとある。でもやっぱり『あんのこと』をはじめ、いろんな作品に責任感を持って取り組む機会が増えたことで、考え方は自然と変わっていきましたね。
──表現者として、どういうものに携わりたいという気持ちがありますか。
世界を良くするものです、ざっくり言うと。
──すごく素敵なことだと思います。世界を良くするって大言壮語に聞こえるけど、一人一人が本気でそう願うから世界は変わると思うので。
そうですね。世界を良くするまではいかなくても、世界が良くなっていない、とは思いたくない。それが一番正直な思いです。
──今、注目される立場にいらっしゃると思います。かつてご自身で「ブレイクしてそのときだけで消費されて終わるのは嫌」とおっしゃっている記事を読んだのですが、今まさにブレイクのさなかにいる現状をどう受け止めていますか。
確かにって思いました(笑)。自分の過去の言葉に、本当そうだなと。分からないけど、消費されて終わる感触ではない感じがしますね。
──それこそ『不適切にもほどがある!』の役のイメージが一人歩きしたり、あるいはこうやって知らない人から自分のことについて根掘り葉掘り聞かれている状況に、ちゃんとフィットできてますか。
大変ではありますね(笑)。きっと消費されたくないみたいな気持ちって、俳優がお仕事をもらう側だから生まれるものだと思うんです。だから、そういう姿勢自体を疑っていれば大丈夫な気がして。もちろんどこまでいっても役をもらわないとできない仕事ではあるんだけど。それよりもまず一緒にものをつくりたいという気持ちがあるからやってるんだと思えば、外からの評価だけに捉われないし、自分の表現にも責任が持てるかなって。今はそういうふうに考えて、大丈夫かなって自分に言い聞かせています。
──では、ものづくりに直接関連しないこと、たとえばバラエティに出てみたいなことには今はあまり興味がない?
いろんなことに興味はあるんですけどね。やってみると面白いかもしれないし。でも、今自分が一番やりたいことは何かと言うと、やっぱりみんなで一緒に作品をつくっていくことにはなりますね。
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