『青春18×2 君へと続く道』公開記念リレーインタビュー #1
「“それでも人生は続く”と描きたかった」藤井道人が『青春18×2』にしたためた自叙詩
2024.05.04 17:00
2024.05.04 17:00
描きたい本質は「Life goes on」
──『パレード』しかり本作しかり、最近の藤井作品には「喪失感」が通底しているようにも感じられます。
『パレード』に関しては、その想いが強いですね。東日本大震災から10年余り、ずっと語れなかったことと、自分にとっていちばん近い人の死(『新聞記者』などでタッグを組んだ河村光庸プロデューサーが2022年6月に逝去)。すごくマスなものとメタなものが、『パレード』には混在していました。
一方、『青春18×2』はというと、喪失感というよりも、描きたい本質は「Life goes on」。それでも人生は続くのだということを描きたかった。自分も36歳。まだまだ人生はこれからだと思いたい。そのための旅にまつわる自叙詩が、『青春18×2』です。
──大切な人を喪われて、少し歳月が経ちました。藤井監督は「Life goes on」と思えるようになりましたか。
大切な人の死というのは、しょうがないという遠い言葉では片づけられないもので、結局は喪失をどう友達に変えていくかでしかないんですよね。自分の力で喪失をポジティブに捉えない限り前には進めない。深い悲しみを経て、「いつか死にますから、僕も」という思いに少しずつ変わってきましたね。
──人間というのは、年齢を重ねれば重ねるほど得るものより失っていくものが多くなってきます。そうした数々の喪失に対し、映画が役に立てることはあると思いますか。
あると思います。僕はやっぱり映画に救われてきたし、映画を観て、1人じゃないと思えたことが何度もあった。だからこそ、自分のつくる映画もまた誰かにとってそういうものであれたらという思いはありますね。
──監督にとって、青春とはいつですか。
今ですね。映画に対する熱が衰えたり、創作に対して枯渇したら、僕の春は終わりです。といっても、どうせいつか終わるので、そのときまで頑張ろうという気持ちで映画を撮り続けている。だから、自分が映画を撮り終わるまでが青春かな。
──36歳。まだまだ青春のように青臭くいられますか。
めちゃくちゃ青臭いですよ(笑)。ネクタイも結べないし、料理も洗濯も掃除もできないまま大人になっちゃって。これでいいんだっけと反省する毎日です。
──大人になると、あきらめたり、わきまえたりしなければいけないシチュエーションに出くわすこともあるじゃないですか。
しなければいいんですよ。(藤井が所属するBABEL LABELの親会社であるサイバーエージェントの)藤田(晋)さんに相談したことがあったんですよ、「権力や時勢と対峙しなきゃいけないときに、どう戦ってきたんですか」って。そしたら、藤田さんは「そうですね、知ったことかって思ってます」と(笑)。僕もそれを聞いて楽になりました。
そう言えるのは、それだけ自分の人生に責任を持っているから。やりたくないものはやらなくていい。その分、自分がやると決めたことに対して最大ベットすればいい。藤田さんからその覚悟をもらったおかげで、腹を決めて頑張れているところはあります。
──映画の中で夢について描かれています。藤井さんは一般的には映画監督という夢を叶えた立場にあるわけですが、夢を追っていた日々と夢を叶えてからの日々、本当に苦しいのはどちらだと思いますか。
僕は夢を追っていた日々の方が苦しかったですね。単純に、昔の方が上手くいかないことが多かった。今も昔も言ってることは一緒なんですよ。でも、できることは今の方が断然多い。僕なんていつかは忘れ去られる身だと思って、今は好きなことをやらせてもらっています。
──映画監督として認められるまでの間で苦しかったことは何ですか。
いっぱいあったと思うんですけど、忘れました(笑)。今は別に辛くないからいいやみたいな感じで、全部忘れちゃうんですよね。それも一つの才能だと思っています。
──あの頃の経験で、今の自分に支えになったり影響を受けているものはありますか。
もう言っていい時期に入ったかなと思うので言いますけど、初長編映画はノーギャラでした(笑)。しびれますよね。でも、それに対しては、誰かへの怒りや絶望というよりは、自分の未熟さへの怒りが強かった。そして、当時出会えた人たちには、心から感謝しています。
今は、この業界が悪いとしたら、センターにいる僕たちの責任。だから、どう環境を改善していこうかというのは試行錯誤しているところです。プレーヤーでいると、労働環境とかちょっと無視させてくれないかなと思うときもあるんですけどね。そこで無視しちゃったら何も変わらない。理想を体現していくことが僕たちの役割の一つ。ちゃんと予算を引っ張ってきて、興行としてしっかり当てる。そうやって労働環境を変えて、いいものをつくって、海を越えようという気持ちでやっています。
──では最後に。今回はリレーインタビューとなります。次にバトンを渡す清原果耶さんに向けて、藤井監督から質問をお願いできますか。
果耶ちゃんとは付き合いも長いですし、これからも一緒に映画をつくっていくと思うので、これだけはやめてくれという僕の直してほしいところを聞いておいてください(笑)。
映画『青春18×2 君へと続く道』場面写真 ©︎2024「青春18×2」Film Partners