劇中のマスクが象徴するものとは?ミア・ゴスへの敬意も語る
『インフィニティ・プール』ブランドン・クローネンバーグ監督の沈思と残虐描写への信念
2024.04.05 17:00
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2024.04.05 17:00
出演者との関係性と撮影のポリシー
──主演のアレクサンダー・スカルスガルドとミア・ゴスの怪演が素晴らしかったです。監督の作品に出演する俳優陣は、いつも他の作品では見せないような一面を見せるような印象があるのですが、本作においてキャストにはどのようなアプローチを取りましたか?
僕がやったことは、ただ脚本と以前撮った自分の映画を彼らに送っただけです。僕の作風に対してミアとアレックスはオープンだったから、2人とも僕の前作を観ていたんだと思います。この種の映画では、俳優が興味を持つか持たないかすぐにわかるんです(笑)。初めから興味を持ちそうな人にアプローチした。アレックスがその1人です。実はすごく単純な話で、脚本には全て書かれているから、その芸術性を彼らが好むか好まないか、そういった種の映画制作に興味があるかそうでないかのどちらかなんです。ミアもアレックスは明らかに前者でした。だから僕の場合、俳優と話せるようになった時点で彼らが出演に興味を持っていることがわかりやすいし、僕も彼らが好きだからアプローチしたわけで、会話は前進しやすいです。
──本作を含め、普段から撮影中に意識することは何ですか?
リハーサルはあまりしないようにしています。撮影直前にそのシーンについて確認しあうだけで、そのまますぐに本番を撮るやり方の方が好きですね。そして撮影内容は基本的にかなり脚本に忠実です。俳優たちが撮影のために準備をしてきた、という事実に敬意を払うようにしているので。彼らの脚本を土壇場で変更すると、再びそれを吸収してもらって自然な状態になるまで多くの時間を費やすことになるから、非常に困難です。フィルムメイカーの中には即興的なやり方を好む人もいますが、僕は普段から脚本通りにするのが大好きです。しかし、それと同時に俳優たちの演技力にも大いに信頼を置いています。だから指摘してくれたキャストのパフォーマンスが引き出せたことは、幸運だったとしか言いようがないですね。脚本にはたくさん“驚くような”内容が記されているから(笑)、俳優にとってはかなり挑戦的だとは思いますが、いつも素晴らしい結果を出してくれています。
──特にミア・ゴスは日本でも『Pearl パール』の主演として昨年知名度を挙げましたが、彼女と一緒に働いてみていかがでしたか?
素晴らしかったですよ。彼女はいつもワイルドでクレイジーな役を演じることで知られているけど、実際は信じられないほどプロフェッショナルで、優しくて素敵な人なんです。自分の役をセットの外に持ち出さないから、身を乗り出して信じられないほど爆発的な演技を披露した直後でも、撮影が終わるとすぐに丁寧な人になる。とても仕事がしやすいし、彼女と一緒に働けたのは最高です。ミアのブレイクは、ある意味ラッキーでした。
僕らが最初にこの映画について話していた頃、彼女はちょうど『X エックス』の撮影中だったから、僕が出演依頼をした時には『X エックス』を観ていませんでした。それでも、彼女を初めて『ニンフォマニアック』で見た時から素晴らしいと常々思っていた。そこから何年も彼女のキャリアを追っていた身からすると、ずっと何か特別なものがある人だと感じていたし、そんな彼女がちょうどホラー映画に立て続けに出演したことは嬉しい偶然で、『インフィニティ・プール』もその流れで注目されました。
──本作では“もう1人の自分”としてクローンを作ることが物語の重要なキーを担っています。すでに技術的に可能だという噂もあるクローニングについて監督はどう思われますか?
ある意味でもう可能になっていると思います。ただ、遺伝子的にクローンを作成することができても、この映画で描かれるようなオリジナルの完全な記憶とアイデンティティを持つクローンを作ることは不可能だと思います。そしてこの映画は決してクローニングをテーマにした映画でもないんです。クローンを作ること自体、SF映画においてはよくある題材で、もしそれが可能になったら現実世界で何が起こるのかについて考えさせられる作品は多いですよね。
ただ、本作はそういった予測的なSFではありません。この映画の中の世界は訳がわからないですし。だって、なぜクローニングが一国だけで行われるのか、なぜこのような使われ方をするのか、なぜそれで世界が変わらないのか、って沢山の疑問が残るから。つまり、普通のクローン映画としては機能していないんです。これもまた、マジックリアリズムの一種ですね。夢要素や世界の不条理の要素を使って、映画で特定の事柄を語っています。
──あと、本作の結末はかなり印象的でした。
映画の結末については、様々な解釈があると思います。僕には僕なりの解釈があるけど、それは説明したくなくて。観客が異なる解釈を持てるよう、意図的に曖昧さを残しておく映画作りが好きなんです。たとえば2人の人間がこの映画を見て、結末について全く違う考えを持つことだってできる。作り手である僕の解釈を話すのが好きじゃない理由は、人々がそれについて議論し、何らかの興味を見つける可能性を排除するからです。
──最後に、日本の映画ファンに向けてコメントをお願いします。
ようやく本作を観ていただけることに興奮しています。信じられないほど自分がラッキーだと感じています。少しでも興味を持っていただけると光栄に思います。
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