2023.12.20 18:00
SHERBETS 2023年12月13日渋谷CLUB QUATTRO公演より
2023.12.20 18:00
観客の拍手と歓声に迎えられ、ステージに出てきたとき、ベースボールキャップを後ろ前に被ったベンジーこと浅井健一(Vo, Gt)が湛えていた満面の笑みが今から思えば、この日のライブのムードを象徴していたように思う。
今年6月8日、結成25周年記念ライブをZepp Shinjukuで大盛況のうちに終えたベンジー率いるSHERBETSは、そのまま歩みを止めることなく、5月から行っていた「25th ANNIVERSARY TOUR『Midnight Chocolate』」の勢いを26年目以降に繋げようと「冬ツアー」のスケジュールを発表。夏フェスをステップに11月4日から席有りの「MIDNIGHT AQUALUNG TOUR」、12月9日からスタンディングの「MIDNIGHT DRIVING SCHOOL TOUR」というコンセプトの異なるツアーを行い、今一度、結成25周年という節目を新たなスタートと捉えていることを印象づけてきた。
そんな「冬ツアー」のファイナルとなる渋谷CLUB QUATTRO公演は、振り返ってみれば、ちょっと畏まっていたようにも思えたZepp Shinjuku公演に比べて、多彩な音楽のエッセンスを纏いながらもSHERBETSが芯に持っているロックンロール・バンドとしての魅力が剥き出しになっているように感じられたことが一番の見どころだったと思う。それはステージとフロアがより近かったからなのか、それとも25周年記念アルバムと位置付けた『Midnight Chocolate』をひっさげた全国ツアーを、すでに終えていたからなのか。ともあれ、テンポを落とした長尺の演奏に宿らせた凄みが1曲目から観客を金縛り状態にするほど圧倒した「魔王をぶっとばせ」から「Hello, Tokyo angels! Let’s party!」というベンジーの言葉に金縛りを解かれたように観客が歓声を上げる中、福士久美子(Key, Cho)もギターの轟音を鳴らした「HIGH SCHOOL」に繋げ、急加速していったバンドが2時間に及ぶ熱演でこの日、披露したのは全20曲。
その内、『Midnight Chocolate』の収録曲は「知らない道」1曲のみ。『Midnight Chocolate』の収録曲を披露するという使命から離れ、新旧のレパートリーから自由に曲を選ぶことになったとき、今回のセットリストがいわゆるロックンロールの範疇に入るような曲が多めになったのは、ロックンロールを楽しみたいという意識があったからなのか、それとも無意識に選んだだけなのか。因みに「魔王をぶっとばせ」から「HIGH SCHOOL」に繋げるという1999年8月のライブを収録した2000年8月発表のライブ・アルバム『SIBERIA GIG』と同じオープニングに狂喜したファンも少なくなかったようだが、その選曲は偶然だったのか、必然だったのかも気になるところ。
いずれにせよ、そんなセットリストのお陰で、すでに書いた通りスタンディングのフロアにすし詰めになった観客が踊り狂う光景や「人生は一度きりだからぶっ飛びましょう!」という福士のMCも込みで、この日のライブはSHERBETSがロックンロール・バンドとして持つワイルドでエネルギッシュな魅力を存分にアピールするものになったのだった。
しかし、それだけでは終わらないのがSHERBETSだ。いや、だからって、前述した「魔王をぶっとばせ」に加え『SIBERIA』『AURORA』というSHERBETSのアルバムタイトルに繋がるイメージを音像化したスロー・ナンバー「ラズベリー」、レゲエのリズムとともに自伝的なストーリーテリングをメランコリックに聴かせる「COWBOY」、仲田憲市(Ba)によるグルービーなベース・プレイと、外村公敏(Dr)が漣のように鳴らすシンバルワークがフォーキーなスロー・ナンバーに躍動感や聴く者の想像力に訴えかける音響効果を加えていた「Another World」といった観客を忘我あるいは恍惚の境地に誘いこむSHERBETSの非ロック的な世界観を物語る曲の数々を言っているわけではない。
もちろん、そういう曲もSHERBETSのライブを語る上では欠かせないことは言うまでもないが、彼らの場合、一口にロックンロールと言っても、「HIGH SCHOOL」のようなガレージ・ロック風だけにとどまらず、キーボードでホーンのフレーズを鳴らす「Canberra Zombies Food Court」があったり、ギター・リフと掛け合う仲田のベース・プレイを含め、円熟味が聴きどころの「知らない道」があったり、ギターのトレモロ・サウンドがサーフ・ロックを思わせるメランコリックな「Hippy Junky Surfer」があったりと楽器の音色の変化も含め、アイデアの閃きもライブにおける聴きどころになっていることを改めて言葉にしておきたい。
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