2023.12.15 12:00
2023.12.15 12:00
にこやかな好好爺を演じていたかと思えば、別の作品では冷酷無比な人物として現れる……今やテレビドラマ、映画で誰もが知る存在である俳優・小日向文世。串田和美率いるオンシアター自由劇場を経て40代から映像世界で活躍するようになった彼にとって、演劇は“ホームグラウンド”だ。
12月7日に開幕した『海をゆく者』は、平田満、高橋克実、浅野和之、大谷亮介というベテラン俳優5人が舞台上で丁々発止のやり取りを繰り広げる会話劇。2011年の初演、2014年の再演時にも高い評価を得た作品の9年ぶりの上演に、何を思うのか? 自分と同じく“俳優”という道を選んだ家族の話、プライベートの話など、じっくり伺った。
全員、気持ちだけは若い頃と変わらない
──久々の『海をゆく者』上演ですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?
演出の栗山民也さんは稽古時間が短いので有名なんですけど、今回もすごく短いんですよ。考えたら栗山さんが70歳で、平田満さんもこの間70歳になったばかり。浅野さんも僕も、大谷さんも年明けで70歳だから、だいたいみんな同学年ばかりなんですよね。はたから見れば初老ですよ(笑)。だからかな、あまり長時間やるとか、追い込んだりとかそういう稽古じゃなくて。栗山さんもすごく楽しそう。
──初演のときの稽古もそうだったんですか?
初演のときは、やっぱり栗山さんが細かくいろいろ決めて行きましたね。まずバーっと一度場面を演じて、「ここのセリフはこう」と細かい指示をみんなで台本に書き込んで行って、帰った後に自分たちでそれをもう一度復習して、翌日にもう一度同じシーンをやって……そういう繰り返し。とにかく自分たちで復習予習をしないと追いつかないというような稽古だったので、必死でしたね。それが再演は初演の5年後だったので、セリフも多少は思い出すじゃないですか。もともとセリフ量も膨大な作品だからそれも大変だったんですけど、再演に関してはセリフの大変さはなかったかな。今回も再演から9年は空いてるんだけど、やっぱり体に染み込んでるんですよ。忘れていたセリフも、思い出してからは入ってくるのが早いですね。
──思ったのですが、再々演作品への出演というのはあまりないのでは?
ないんですよ。劇団時代にはありましたけど、それ以降は初めてです。ただ最近だと去年出演した渡辺えりちゃんとの『私の恋人』だったり、串田和美さんの『スカパン』だったり、再演作出演は続いてたんですけどね。再演、再々演だと世界観や方向は決まっているから、あとは新たに作り上げたものをそこに「積み上げていく」作業。何もないところからいちから作り上げていくよりは全然楽ですね。
──小日向さんは正直、今回の再々演の話を聞かれたときはいかがでしたか?
楽しみでした! だって、公演中に自分が70歳になるんですよ? 笑っちゃいけないんだけど、笑っちゃうよね(笑)。自分が劇団(オンシアター自由劇場)に入った時に、座長の串田さんが確か当時35歳かな……もっと年上の座員も居たけどそれでも30代だった。自分が芝居を始めた頃に、70歳の人なんて周りに居なかったんですよ。でも今回こんな平均年齢が70歳近い座組で、それでもみんな気持ちは若いんですよね。自分が若いころ「70歳ってこうだよ」って誰も教えてくれなかったし、想像してた70歳はもっとのんびりしてるというか、もっとおじいちゃんだったんですよね(笑)。だから稽古しながら「歳を取るってこういうことなのかな」とどこか実感しながらやってます。でも本当に、気持ちは若い頃と変わらないんだよなあ。
──初演のときは、上演が始まると演劇ファンを中心に口コミで話題が広まっていった様子が印象でした。出演者の方々もその実感はあったのでしょうか?
本番中はそこまで実感はなかったんだけど、千秋楽の後に俳優仲間たちから「また観たい」「すごく面白かった」という声をたくさんもらいましたね。今回改めて稽古をしながら、本当にいい脚本だなというのは感じています。出てくるのは基本、どうしようもない人たちなんですよ(笑)。汚い、臭い男たちが酒を飲んでベロベロになって酔っ払って話している……そんな作品で、高尚なことなんか誰も話してない。でもそこから見えてくるのは、人間が生きているということの素敵さ。けして恵まれている環境とは言えない彼らを見ていると、衣食住に恵まれている自分たちは本当に今“幸せ”なのだろうか? ということを考えさせられる。そして最後に、神様のような“高いところ”からの祝福が僕ら人間に対して伝わる。本当にいい作品なんです。
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