2023.12.03 12:00
2023.12.03 12:00
演じてきた役は絶対に裏切らない戦友
──梨枝は、亡き母との約束が、10年間、ひとりで芸能界で頑張る原動力になっていました。蓮佛さんにとって、仕事を続ける支えになったものは何でしょうか。
自分自身だと思います。もちろん見てくださる方がいて初めて完成する仕事だというのは大前提としてあるんですけど、自分が頑張る燃料になっているのは、やっぱり自分自身なんですよね。
私はこの仕事がやりたくて、自分でオーディションに応募してこの世界に入ってきて、やりたいことがこれしかなかった。だから、ずっと自分と戦ってる感じです。もっと上手くなりたいとか、もっといろんな役やりたいとか、そういう情熱にただ従っている感じで、それが楽しいから続けてこられたんだと思います。
──それだけ女優のお仕事をやりたいのはなぜなんでしょう。
こういうことを言うとちょっと気持ち悪いと思われるかもしれないんですけど(笑)、私、自分の体調が悪くてもカメラが回ると治るんです。役にもよりますけど、自分でいるより、役を生きてるときの方が楽だなと思うときがあるんですよね。
今まで自分が演じてきた役は全部魂が実在していると思っていて。私にとって、演じてきた役はみんな戦友なんです。極端なことを言うと、絶対に裏切らない戦友がいっぱいいるというか。それがすごく幸せなんです。
──でも、お芝居は正解がないですし、思うようにできなかったり、人と比べてしまうことがつきものだと思うんです。そういう壁にぶつかったとき、どうしていますか。
とことん悩むしかないんだろうなと思います。この仕事は、1テイク1カットにかける正解を見つけなきゃいけなくて。でも、監督がOKと言ったらそれが正解になるわけで、自分では何が正しいかわからない。だから、都度都度丁寧に悩むしかないんだろうなって。悩むことは悪いことではないですからね。
──女優人生の中で最も大きかった壁は何ですか。
2018年に『リトル・ナイト・ミュージック』という舞台に出させてもらったんです。私にとって初舞台で、しかも初ミュージカル。生まれて初めて「もう1回お願いします」が言えない世界というものを体験して、結構コテンパンにやられちゃったんですね。
東京千秋楽の1週間前くらいに喉に結節ができて。声が枯れているけど、歌うしかない。あのときはもう明日が来るのが怖くて人生で3本の指に入るくらい号泣しました。で、人前で歌うことに対してすっかりトラウマができちゃったんですけど、次の年に『ドン・ジュアン』というミュージカルのお話をいただいて。逃げるのもありだなと一瞬頭によぎったんですけど、お受けすることにしたんです。
──そこでオファーを受けるところがすごいですね。
たぶんこれを断ったらミュージカルのお話は二度とないんだろうなと思って。去年の悔しさがまだ自分の中で残っていたから、そのままにしておきたくなかったんです。でも、その決断のおかげですごく大きな出会いをさせてもらいました。
──というのは?
『ドン・ジュアン』の主演の藤ヶ谷(太輔)くんですね。藤ヶ谷くんがすごく体調が悪い中、それをまったく観客に気づかせないパフォーマンスをしている公演があって。自分以上にピンチな人がそれを乗り越える姿に感化されたというか。その背中を間近で見ていて教えてもらうことがたくさんあったんですね。
で、そのさらに次の年に『脳内ポイズンベリー』という今度はストレートプレイのお芝居をさせてもらって。気づいたら、ずっと私の中にあった生の舞台に対する恐怖心がなくなっていたんです。それまでは初日なんて食事も喉を通らないくらい緊張していたんですけど、そのときは心の底から楽しめていて。自分自身が何か克服したというよりも、自然と昇華されていた感じでした。
だから、壁って乗り越えようともがくものではなくて、壁と壁の間を何度もバウンスしていたら、いつの間にか壁の向こう側に出ていた、というものでもあるのかな、と思います。
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