ターニングポイントと語る舞台『ある都市の死』で目指すもの
s**t kingzの2人が挑む新たな表現の形 “人”として今、芝居と向き合う意味とは
2023.12.01 17:00
2023.12.01 17:00
舞台『ある都市の死』は、映画『戦場のピアニスト』の主人公として知られるポーランドのピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンと彼の息子であるクリストファー、そして彼を救ったドイツ軍将校ホーゼンフェルトの物語を、2人の俳優とピアニストの生演奏で紡いでいく──という作品。
このミニマムな作品に挑戦するのは、4人組ダンスパフォーマンスグループs**t kingzのshojiこと持田将史と、Oguriこと小栗基裕。メンバーそれぞれがダンサーとして、そして振付師としても活躍する中、10月にはダンサー史上初となる日本武道館での単独公演を成功させた彼ら。名実ともに今のダンスパフォーマンス界のトップを走り続ける中で、こういった作品に“挑戦”する理由とは? 武道館公演を大成功に終え、まだその余韻が残る中でのインタビューから見えてくる「s**t kingzが目指すもの」。
2人が「芝居をしたい」と思った理由
──お2人は2019年と2021年に朗読×ダンスという形態の『My friend Jekyll』(2021年)に出演されていますよね。あの作品があってこその今作という流れだと思うのですが、そもそもダンサーであるお2人がこういった形の作品に挑戦するきっかけは何だったのでしょうか?
持田将史(以下、持田) 僕たち2人は、メンバーの中でもずっと「お芝居をしたい」と思っていた人間なんですよ。小栗は一番先に演技というところに踏み込んで活動を始めて、追いかけるように僕もお芝居に興味を持ってそういった活動を始めたんですけど、そんな中で「ダンスと組み合わせて新しいものを作れないか」と思うようになり。そういう流れで新しくチャレンジしたのが『My friend Jekyll』だったんです。そして今回の『ある都市の死』は“朗読”というところからもまたちょっとはみ出して、お芝居とダンスなんだけどもミュージカルとは違う……「何と呼べばいいのかわからないシリーズ」を作り続けているという(笑)。
──「お芝居がしたい」と思ったきっかけは何だったんでしょう?
小栗基裕(以下、小栗) 最初は「ダンス1本でやる」という思いしかなかったんですけど、ダンサーの先輩たちが「ダンサーだけでお芝居をする」という舞台作品を作ってたんですよ。それを観に行っているうちに「このセリフ、俺だったらこう言いたいな」とか、そう考えてワクワクしている自分がいて。そこからそのカンパニーの人たちに誘ってもらったのがきっかけですね。楽しさだけでなく難しさも感じたし、でももっともっとやりたいと思うようになった。
持田 僕も、ずっとドラマも好きだし、演劇の舞台を観に行くも好きで。自分がそういうものをやるとは思ってなかったんですけど、35歳ぐらいのときですかね、うちのメンバーのkazukiが確かラジオの収録中に、「俺たちはダンサーである前に人間だぞ」って言ったんですよ。それは本当にふざけてしていた話の流れだったんですけど、それが自分の中ですごく引っかかって、もっといろんなチャレンジをしてみたいなって思ったんです。なぜ自分にはダンスしか表現がないと思ってるんだろう、それはもったいないなと。それですぐに「お芝居がやりたい」と思い、レッスンに行かせてもらって……という流れですね。
──最初にメンバー2人で演技もする作品として上演されたのが「朗読×ダンス」という形だったのが興味深いです。しかも瀬戸山美咲さんという、社会派の作品を多く作っている「演劇の演出家」と一緒に、というのが挑戦的だったのではと。
持田 最初に事務所と相談していたら、せっかくだったらチャレンジングな方がいいのでは、という話になり。普段自分たちが思いつくようなことでない方がチャレンジしがいがあるし、面白いなって思ったんです。
小栗 初演の時に最初に思ったのは、まず朗読というか「ちゃんと声を出す」ということがダンスとは全然違うスキルだということ。それを改めて実感しましたね。一朝一夕でできるものではないし、ダンスをこれだけコツコツやってきたからこそ、すごく分厚い高い壁だなっていうのを痛感しました。でも、瀬戸山さんの芝居に対するアプローチがめちゃくちゃアグレッシブなんですよね。感覚で作っていくところがダンスと少なからず共通点があったり、そういうことを発見していって、すごく面白いクリエイティブができたんです。瀬戸山さん、実は三浦大知のファンだったり、ダンス自体も好きでいてくれて、そういう点でもとてもやりやすかった。
持田 瀬戸山さんは、普段からオーディションで一般の方から演者を選んだりとかもされている方なので、お芝居の経験がない人と作品を作ることに慣れているんだと思います。前作は初めての挑戦なのに昼公演と夜公演で役が入れ替わるっていう衝撃的な形態だったんですけど(笑)、このアドバイスは持田さんは聞かないでくださいとか、ここは小栗さんを真似しないでくださいとか、「共通の正解を導こうとしない」んですよ。だからこそ自分にはこういう個性があるんだな、お芝居にはこんな可能性があるんだな、というのをいろいろ発見できた気がします。
小栗 でも初演は本当にドタバタすぎて、生きた心地がしなかったですね……。
持田 そうだったね(笑)。
小栗 公演期間も2日間とかだったから、あっという間に終わってしまって。達成感というより「無事終わってホッとした」という気分が強かったかもしれない。再演で改めて向き合ったときに、初演とは全然違う気づきもたくさんありましたし、どういうことを考えてこのセリフを言うかとか、役者の皆さんが当たり前にしているようなアプローチの入り口がやっと見えたような気がしましたね。
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