実写化で向き合った課題と作品観、そして「人をわかる」とは
真木よう子×今泉力哉、2人のバランスが生んだ映画だけの『アンダーカレント』
2023.10.06 17:30
2023.10.06 17:30
10月6日に映画『アンダーカレント』が全国公開を迎えた。漫画ファンの間で「まるで1本の映画を観ているようだ」と評される豊田徹也による名作漫画の実写化を担ったのは、『愛がなんだ』『ちひろさん』などを手がけた今泉力哉監督。真木よう子が主演し、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこといった実力派が物語に奥行きを与えている。
漫画そのものを多く読んでこなかったという今泉と、かねてより漫画好きを公言する真木。この2人のバランスによって生み出された空気が、本作には多大に反映されている。有名漫画の映画化にあたり2人が意識した点とは。その楽しさと難しさ、そして映画のキーワードである「人をわかる」こととは。今改めて向き合ってもらった。
実写化オファーを受けたときの心境
──『アンダーカレント』は漫画原作でありながら、東京のどこかで現在進行形でありそうなリアリズムを感じる映画でした。どういった経緯で映画化に至ったんでしょうか。
今泉力哉(以下、今泉) プロデューサーから「この漫画を映画にしようと思うんですけど」って連絡がきて。自分はふだん漫画は数を読んでなかったので、そのタイミングで知った漫画でした。ただ、今まで描いてきた映画や考えていたことと通じる部分もあったし、漫画もめちゃくちゃ面白かったので、どう映画にすればいいか難しいけど、やりたいと思ったのが始まりでした。
──真木さんは大の漫画好きを公言されていらっしゃいますが、この作品はご存知でしたか?
真木よう子(以下、真木) はい。すごく前に読んでて。おそらく20代前半とかそこら辺だったと思うんですけど。本当に漫画好きだったんで、本屋さんにふらって行って、ジャケ買いしたんですよ。今になって話がきて「この漫画なんです」って言われたときにも覚えていて。ということは、20代前半の責任がない状態のときに読んだ漫画でもまだ残っているっていう、すごくいい作品だったんだろうなって思って。ここがいいんだよってはっきりは言えないけど、「ん?」が残っているっていう、好きなジャンルの漫画だったんですよね。
──主演のかなえを演じるって知ったときはどう思いましたか?
真木 「ああ、私に来た!」って。漫画ファンの人たちは多分同じ思いだと思うんですけど、本当に好きな漫画って絶対実写化してほしくないんですよ。でも実写化するなら私がやりたいし、でも壊したくないしって思うので、現場には台本と漫画を持っていきました。漫画そのままのシーンとかがあったら、そういうときは漫画のかなえちゃんを見て、どこに視線をやってるのかなとか考えたりして。漫画ファンにも「真木よう子じゃなかったよね」みたいなことは絶対言われたくない。そう思ってやってました。
──堀(井浦新)に作る鮭の朝食が漫画のまんまだったのも「すごい!」と思いました。漫画をそのままトレースしたような部分と奥行きを持たせた部分の対比構造もすごく面白いなと思ったのですが、どのように演出をされたんでしょう。
今泉 自分は漫画は現場に持ち込んでいないですけど、原作があるときでも、まんまトレースしようみたいな意識はなくて。例えば食べ物とか寄せられるところは寄せて、真木さんが言ったみたいに漫画にある正解はもちろん取り込んだ上でですけど、全部囚われたら本当にコピペしていくみたいになると思うし。それは自分がつくりたいものとは違うので。とはいえ、原作ものを映画化する際に一番大切なことは、原作者や原作ファンが面白がれること。それは必ず目指します。そこに流れてる独特な空気とか、ベースにある悲しみとか不安さみたいなこととかが、オリジナルパートも含めてその通りにちゃんとなればっていうのは意識していました。
でも僕は全体像が見えていて演出するタイプではないので、そのときそのときに俳優さんが目の前でやってることの温度がブレなければ大丈夫だろうなという感じで現場にいました。シーンごとに作ってる感覚ですね。全体を考えるのはもちろん大切ですけど、全体のために個々のシーンがあると考えてしまうと、「そのシーンのためにこのシーンがある」みたいになっていくじゃないですか? それって現実世界と違うというか。現実世界は明日どう過ごすかなんてわからないじゃないですか。死ぬ日に何をしているかとか。もちろん事前の準備とかはあると思うけど。基本的に、後ろのシーンや重要なシーンのためにこのシーンはこうあるべきだ、みたいなことは考え過ぎないようにしていますね。瞬間瞬間に向き合って、その温度とか速さとか空気を見ていた気がします。
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