2023.09.25 18:00
水樹奈々(2023年9月3日「NANA MIZUKI LIVE PARADE」有明アリーナ公演より)photo:kamiiisaka
2023.09.25 18:00
6月に公開したインタビューで、水樹奈々は全国ツアー「NANA MIZUKI LIVE PARADE 2023」について、「ド派手にいこう!といろいろ考えている」「(2023年1月開催の)『LIVE HEROES』とはがらりと違った趣」「皆さんが思い描く“パレード”とは一味違うものかもしれない」「サプライズを仕掛けたい」と話していた。同ツアーの千秋楽となる有明アリーナ3日目のステージはまさにその言葉のとおり、否それ以上のスケールを持った3時間超えのステージ。“パレード”の固定観念を覆す深みとダイナミズムには、水樹のライブに対する並々ならぬ思いが漲っていた。
ステージの前面に立ちはだかるモニターに、飛空艇とその船長を務める水樹によるオープニングムービーが流れる。モニターが扉に様変わりするとそれが左右半分に割れ、その先には飛行艇船長の衣装をモチーフにしたブラック×ピンクのゴシックコートドレスに身を包んだ水樹の姿があった。
「気合い入れていくぞ有明!」の掛け声から「Red Breeze」を皮切りにアグレッシブかつクールで挑発的な楽曲で序盤から会場を焚きつける。パレードという言葉から受ける“明るく楽しいお祭り”という印象とは真逆と言っていいかもしれない。だがそれはこのライブに「コロナ禍で混沌としていた世の中が新たに歩み始めたなか、ファンとともに声を上げて新たな未来を作る」という、光と影の物語が投影されているからだ。
約4年ぶりの声出しOKライブに、水樹も「幸せすぎる!」と喜びを噛み締める。「久しぶりにみんなとコール&レスポンスができる、絶唱し合える場所ができたということで、今回のツアーのセトリはぶっ飛ばしてます(笑)。皆様最後まで変わらぬテンションでついてこれますか?」と呼び掛けると、バックバンド・Cherry Boysの演奏に乗せて衣装チェンジをしてバックダンサーズ・team YO-DAと共に再登場。「still in the groove」などをダンスパフォーマンスで披露する。ヘッドセットマイクをつけたダンスパフォーマンスも、高いヒールのブーツにパンツスタイルで颯爽と花道を闊歩する様子も、隅々まで凛々しい。疾走感に富んだ「Gimmick Game」は、都会のビルの隙間を潜り抜ける映像の演出も相まってスリリングなムードで観客を刺激した。
Cherry Boysのコーナーの後、水樹がグリーン×パープルのコスチュームで登場し「Get up! Shout!」を歌唱する。ジャンプしながら笑顔でコールを煽り、「MASSIVE WONDERS」からなだれ込んだ「ETERNAL BLAZE」ではステージに火の玉が次々と上がる。ドラマチックなメロディに乗る《弱さも全部 力に変えて》や《傷つくたびに 優しくなれる》などの熱いメッセージと、華麗でたくましい水樹のボーカルの相性の良さを十二分に感じられるセクションだった。
3日連続の単独公演は「NANA MIZUKI LIVE FEVER 2009」以来だと語る水樹は「全然疲れてない。今日初日かな?くらいの感じ」「カレー食べたら何でもできる」と平然とした様子で話す。そしてこの日の5曲目に披露した「Faith」のパフォーマンス中にブーツのヒールが反対の足のリボンにすっぽりとはまり、それを取ろうとした瞬間に転んでしまったことを明かし、それを「奇跡が起こった」と言い表した。慌てることなく笑顔ですぐさまスマートに立て直した瞬間も見事であったが、そのポジティブな解釈は多くの観客を励ましたのではないだろうか。
このツアーではCherry Boysの選抜メンバーが、夏やパレードをテーマにした楽曲から選曲してオリジナルアコースティックアレンジで1曲披露するコーナーが設けられた。この日はサックスの藤陵雅裕が指揮を執り、ドラム、キーボード、ウッドベース、サックスの4人編成のジャズアレンジで「哀愁トワイライト」を届ける。水樹も音に身を委ねるようにムーディーに歌い上げ、大人の洒落た空間を作り上げた。
再度Cherry Boysが全員集結するとシティポップテイストの「Sweet Dealer」で夜の訪れを彩り、夏の終わりの夢の中へといざなうように「恋想花火」でノスタルジーで包み込むと、ステージ前にモニターが現れてオープニングムービーの続編となるブリッジムービーが流れる。雷に打たれた飛空艇が墜落し、荒廃した世界に水樹が降り立つと、彼女の歌が再び世界を照らし出すという物語だ。壮大な映画を思わせるクオリティの映像と音楽に圧倒されていると、この直後さらに驚愕することとなる。
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