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INTERVIEW

オスカー2冠に輝いた話題作が持つテーマと役への解釈を語る

「ネットのコメント欄は恐ろしくて酷い」ブレンダン・フレイザーが振り返る『ザ・ホエール』

2023.04.26 12:00

2023.04.26 12:00

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アカデミー賞主演男優賞を受賞したことで話題となった映画『ザ・ホエール』が全国公開されている。本作は余命がわずかであることを知った体重272キロの孤独な男・チャーリーが、最期に娘との絆を取り戻そうとするヒューマンドラマ。『ブラック・スワン』や『レクイエム・フォー・ドリーム』『マザー!』などで知られるダーレン・アロノフスキーが監督を務めている。

チャーリーの家には数少ないが様々な登場人物が出入りする。本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたホン・チャウ演じる看護師のリズ、Netflix『ストレンジャー・シングス/未知の世界』シリーズでお馴染みのセイディー・シンク演じる娘のエリー、タイ・シンプキンス演じる新興宗教の勧誘に来る青年トーマス、ピザ屋のデリバリー……。限られた世界の中で、限られた者たちとの交流を通して描かれるチャーリー自身の真実、そして性善説を巡る会話に心揺さぶられ、打ちのめされる。

主人公のチャーリーを演じたのは、『ハムナプトラ』シリーズでも知られるブレンダン・フレイザー。紆余曲折の経験を経た彼だからこそ、セリフの全てに重みを感じる素晴らしいパフォーマンスを披露した。そんなフレイザーに、衝撃的なカムバック作品として選んだ本作に抱く愛情と撮影期間の心境について語ってもらった。

アカデミー賞2冠_4/7公開『ザ・ホエール』予告篇

──まず、この映画はあなたの視点では何について描いた作品ですか?

一つの力強い希望についての映画です。5人のキャラクターが、チャーリーの贖罪に対する救済の道を探し求める。決して摂食障害の男についての物語ではありません。まあ、主人公が体重272キロということもあって表面上はそう見えますよね。しかし、彼の体重は「我々がお互いに違うとして、その違いとは何なのか」という問いのシンボルなのです。

本作の大部分が贖罪をテーマにしています。チャーリーは後悔を抱えて生きている。彼は大学で教鞭を執っていた時、どうしようもなく恋に落ちてしまった。それが彼の元妻と彼の娘との関係を悪化させたんです。そして彼にとって大きな後悔を残す決断をした。私たちが初めてスクリーンでチャーリーの姿を見るとき、彼の状態が明らかに悪いことがわかります。健康が著しく損なわれているんです。そして彼がキッチンで仕事をしながら健康に関する恐ろしい事実を検索してしまった時、彼は救済における唯一の希望が娘と再び繋がることだと気づく。その “気づき”……希望の瞬間の表情が本作のポスターに使われているんです。

ブレンダン・フレイザー

──劇中、セイディー・シンク演じる娘・エリーとのやりとりは真に迫るものがありました。

重ねて言いますが、本作は人生のどん底で再び愛を見つけようとする物語なんです。主人公は文字通り小さなアパートの一室で暮らしていて、動ける範囲もかなり限られている。オンライン授業を行う日々を過ごしていますが、彼はカメラをオフにしています。それは大きな自分の姿を恥じ、嘲笑から身を守る行為であると同時に、ある意味で生徒に人を傷つけさせないよう、彼らのことも守っているんです。人は他人を傷つける。よくないことですよね。チャーリーという人物は、我々の社会がよく無視したり、忘れたり、関わりたくない、無関心でいる存在で中傷の的です。ネットサイトのコメント欄を見ればいろんな人が体重の問題に好き勝手コメントしていて、その態度は……とにかく恐ろしく酷いものだ。私たちはそれを客観的に見ることができますが、実際にネットの現状は社会が大きな体型で生きる人々に対して持つ態度を指し示す目印になっています。本作は別にそういう問題を正そうとしたり、現状を変えようと試みたりするものではありませんが、人が他人に向けなければいけない寛容さについて問題提起する側面を持っていると思います。

『ザ・ホエール』場面写真© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

──確かに、本作には改めてなぜ人が他人に対していとも簡単に酷い言葉を投げかけたり、憎んだりすることができるのか考えさせられました。チャーリーは非常に感情的で、憂鬱で、深みのあるキャラクターですが、演じる上でどのように役を捉えましたか?

忘れてはいけないのは、我々が映画で出会うチャーリーは、彼の人生におけるその時点での彼であることです。劇中、宣教師のトーマスに「これまでの人生、ずっとこんな自分だったわけではない」と伝えていたように。彼は素晴らしい教育者であり先生で、メンターだった。生徒は彼の話し言葉や書き言葉、言語コミュニケーションに対して抱く喜びを感じ取っていたし、尊敬していたはずなんです。

それに対して我々が映画を通して出会うチャーリーはベストな状態ではない。むしろベストな状態になるために多くの準備が必要です。しかし、彼にとって唯一残された方法は自分の下した人生の決断についての厳しい真実に向き合うことでした。そして私たちは、これがダーレン・アロノフスキー監督の映画であることを忘れてはいけません(笑)。彼の作品はいつだって尖っていて、ねっとりしていて、怖い。しかし、それが人生そのものなんですよね。それに対して目を逸らすのか、腰を抜かすのか。この映画は、私たちに挑戦します。

──確かに、鬱々しく重厚感のある作品を手がけてきた“アロノフスキー監督節”が本作でも健全でしたね(笑)

その通り。本作を見て、言語化できないレベルで感情的に動かされたと感じる人は一人じゃないはずです。私は本作をおそらく10回くらい観客と共に観ていますが、観客がチャーリーに対して抱く感情の波がいつも同じでした。彼がついに娘のエリーに対して謝罪をするシーンは、いつだって人の心を掴む。そして……ちょっとおかしなことを言っているように聞こえるかもしれませんが、例の論文を読むときのエリーは、まるで彼女が魔法の呪文を唱えているように感じるんです。そしてその言葉によって彼は贖いを得る。この一部始終を捉えたラスト5分で観客は感動し打ちのめされ、カタルシスを感じるわけです。自慢する訳ではありませんが、こんなふうに観客の感情を揺るがせる映画が近年あったでしょうか。

なので、観客が本作を通して一緒に泣き、カタルシスを感じてくれることを私は本当に嬉しく思うんです。もちろん、人々の感情や精神を壊したいわけではないし、この映画を観て感動したり泣かなかったりした人が石のような心を持っていると言っているわけではありません(笑)。ただ、こんなふうに本物で有機的で、かつ非常に個人的なものを多くの人が一緒に体験することは重要なことだと感じています。

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撮影を振り返っていま、何を想うのか

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作品情報

ザ・ホエール

© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

ザ・ホエール

2023年4月全国公開
2022年/アメリカ/英語/117分/カラー/5.1ch/スタンダード/原題:The Whale/字幕翻訳:松浦美奈

公式サイトはこちら

スタッフ&キャスト

監督:ダーレン・アロノフスキー
原案・脚本:サム・D・ハンター
キャスト:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ

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