英米最大の音楽賞をW受賞した直後の“超貴重”な初日本ツアー
Wet Legがもたらした熱狂空間、圧倒的多幸感とバンドの真価を見せたO-EAST公演
2023.02.17 21:50
Wet Leg(2023年2月15日 Spotify O-EAST公演より)Photo by Kazumichi Kokei
2023.02.17 21:50
Wet Leg(ウェット・レッグ)のデビューアルバムがリリースされたのは2022年4月8日。いきなり全英チャート初登場1位に輝いて全世界の熱い視線を集め、日本でもすぐに話題になった。10代・20代ばかりでなく、40代・50代の音楽好きたちが早くに好反応を示していたのも特徴的だった。2021年5月にデビュー・シングル「Chaise Longue」をリリースしたときから既に注目度は高かったが、アルバムがすごくいいという評判は高速で広まり、発売月中にもう来日公演が決まった。東京公演のチケットはあっという間に完売となり、6月には追加公演が発表されたが、それが売り切れるのも早かった。
チケットが発売されて10ヵ月。そのくらい時間が経つとなると当初の熱が冷めたりしてもおかしくないのだが、Wet Legに関してはまったくそんなことがなく、早く観たいという気持ちは高まるばかりだった。昨年6月のグラストンベリーにおける大盛り上がりのライブ映像を観てその気持ちに拍車がかかり、今年のグラミー賞で5部門ノミネート中「最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム」「最優秀オルタナティブ・ミュージック・パフォーマンス」の2部門を受賞するに至って期待感が倍増。さらに来日直前にはブリット・アワードでも「Best New Artist」と「Group of the Year」の2部門を受賞。そこではダンサー十数名を交えてのパフォーマンスも披露し(曲はもちろん「Chaise Longue」)、曲中の一節である「Excuse me」「What?」のやり取りを間もなく自分たちもできるんだと考えて尚更楽しみになった。
それにしても絶好のタイミングであり、我々はラッキーだ。グラミー2冠+ブリッツ2冠。米と英の栄えある賞で合わせて4つのトロフィーを獲ったばかりのバンド(ユニットと言うには違和感あるし、バンドと言っていいだろう)をO-EASTという1,300人キャパシティのライブハウスで観ることができたのだから。このくらいのハコで、あんな至近距離で彼女たちの単独ライブを観る機会は、恐らく2度と訪れないだろう。
サポートDJ、Changsieの時間が40分程度あったあと、Wet Legの登場は20時ちょうどかと思いきや、その10分ほど前にわりとあっさり登場。勿体ぶった感じはなく、サポートの男性メンバー3人と共に主役のふたり──リアン・ティーズデイルとヘスター・チャンバースも本当にあっさり登場し、これまた勿体ぶることなく、すぐに演奏が始まった。オープナーはアルバム『Wet Leg』同様「Being In Love」だ。
バンドはヴォーカル&リズムギターのリアン、リードギター&バッキング・ヴォーカルのヘスター含めて5人。ドラムがヘンリー・ホルムズ、ベースとバッキング・ヴォーカルがエリス・ドゥランド、アディショナル・ギターとシンセサイザーとバッキング・ヴォーカルがジョシュ・モバラキ。男性3人はツアーメンバーだが、ブリット・アワードの受賞シーンでは彼らも壇上にあがってスピーチしていたし、ツアー生活を送っている今では5人でひとつのバンドという意識を強く持っているのだろう。サポートの3人とも髪がほどほどに長めで、グランジとは言わないまでもファッションにはさほど気をつかってなさそうなカッコであるだけに、Wet Legのふたりの着こなしが尚更ステキに見える。もともとリアンはスタイリストで、ヘスターはジュエリー職人でもあるからして。因みにシンセとサイドギター担当のジョシュはもともとヘスターのボーイフレンドで、ヘスターの以前のバンドの相棒。その頃はヒップホップ的な音楽をやっていたようだ。
そんな5人が鳴らす生音は、レコードのそれよりも遥かにロック的でオルタナ的とも言えるもの。ヘスターはときどきノイジーにギターを鳴らし、リズム隊は力強くグルーブを先導する。わけてもヘンリーのドラムが爆発のきっかけを作る場面が多く、このドラマーがいてこそのタフなライブサウンドなのだと感じられた。
初めてWet Legの曲を聴いたとき、世代的に自分は70年代後半から80年代前半あたりにかけてのポストパンクバンド、例えばYoung Marble GiantsとかThe Raincoatsなんかをちょっと思い出したりもした。非力で、音がスカスカで、だけどポップで、鋭くて。Wet Legのライブもそういうふうに、スカスカなんだけど鋭くてポップといった感じのものなんじゃないかと想像したのだ。が、そうじゃなかった。想像よりずっと力強いロックバンド的なアンサンブルだった。とはいえ終始パワーでゴリゴリに進めるわけではなく、リアンの甘く柔らかな歌声をちゃんと引き立て、さがるところはさがる。曲によってはローファイ的な行き方もする。近頃は若手でもやたら演奏テクに長けているバンドが多いが、そうではないながらもバンドが何をどう表現したいのか、そこを重視した音をちゃんと作れているという意味で、いいバンドじゃないかと思えた。
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