2023.02.10 12:50
2023.02.10 12:50
稽古場も楽しいものにしたい
──昨年発売された著書『錦織一清 演出論』(日経BP)では、ご自身の考える演出法について詳しく語られていますよね。また、つかこうへいさんの記述が印象に残りました。よくつかさんというと即興の「口立て」でセリフを付けていったり俳優を追い込んでいく演出のイメージがよく語られますが、錦織さんの中での思い出は。
舞台『蒲田行進曲』(1999年)で最初につかこうへいさんとご一緒したとき、僕も当時30歳を過ぎてましたから、最初はもう「怒り」ですよ。なんでこんな嫌な言われ方をするんだろう? と。それこそみんなの前で生活のことを言われたりね(笑)。でもつかさんの演出には、どこか麻薬的な魅力があったんです。つかさんにネチネチ詰められてることに安堵感を感じる、そんな変なカタルシスもあったり。つか作品に関しては春田純一さんや山本享さんだったり、僕よりも前から長くやられている先輩もたくさんいるわけですが、そういう方々と飲むと必ずつかさんの話になり、そして「俺はこんなひどいことを言われた」って「ひどいこと言われた自慢」大会になる(笑)。
──やはりそうなんですね(笑)。
でも実は、これを言うとちょっと「驕ってる」と思われそうで嫌なんですけど、僕がつかさんと初めて会ったときに思ったのは「共通項がある」というところだったんです。例えば苦手な人間のタイプとか、食事のときはこういうことが嫌だとか、偉い人たちが集まるパーティーみたいなのはあんまり行きたくないよね、とか。感性というか、「人間としてのフォルム」が似ている感じがしたんです。あと一番びっくりしたのは、僕さいとうたかをさんの『ゴルゴ13』がすごく好きなんですけど、あの膨大なお話の中から著名人が自分の好きな回を選ぶという企画が入った総集編が以前発売されまして。好きだから当然買うわけです、そうしたらそこにつかさんが載っていて、選んでいるのが『海へむかうエバ』という回だったんですが、それこそ僕が『ゴルゴ13』の中で一番好きな回だった。もう「嘘でしょ!?」と。
そういういろいろなことがあり、この人は信頼できる、自分のことを預けられるなと思ったというのもあります。自分が出てなくてもつかさんの作品を観に行って、終演後に一緒に飲みに行ったりするじゃないですか。そうするとずっと出演者のことを「あいついいだろう、いい芝居するだろう」って語ってるんです。僕、そういう場でつかさんが誰か出演者の悪口を言ってるのを聞いたことがない。たまにさ、飲みの席でその場にいない人を「売り飛ばす」人っているでしょ? 「あいつってああだよねー」とか、そういうのは全くない人だった。だから信頼できたし、ダンディズムですよね。
──ちなみに今作は、初めて錦織さんが「プロデュース」された公演とのことですが。
これは演劇界やエンタメ界みなさん同じだと思うんですけど、新型コロナウィルス流行で2020年からこちら、飛んじゃったり実現できなかった企画というのがありまして。それもきっかけになり、今までは僕は事務所に所属しながら、使っていただけるときには東宝さんや松竹さんといった大きな会社、大きな劇場とお仕事をさせていただく……という形で活動してきましたけど、これからはもう一歩踏み込んでやってみようかなと。だからある意味、今回の公演はその勉強のためにもいいチャンスだなと思ったんです。でもそんな意味合いもある企画で、三越劇場なんていう立派な劇場でやらせていただけるのはすごく大きなこと。ありがたいですね。
──今後は「俳優」「演出家」としてだけでなく、別の形でも作品作りに関わっていきたいと。
これまで、演出家としてもいろいろお仕事をいただいてきましたけど、僕は演出家って「大工」だと思ってるんです。この広さの土地に家を建てて欲しい、3階建てでお願い……というリクエストがきたら、自分の技量をフルに駆使して「最高の3階建て」を作る。でもこうやってプロデュースという形で関わるようになれば、場合によっては「この広さだったら平屋のほうがカッコよくない?」という提案ができるわけです。パンフレットはどうする、チラシのデザインは、写真はどうする……そういう「舞台演出」以外のことにも関わって、自分のイメージを膨らませていくことができる。僕にとっては「挑戦」です。でもやりたいこと、やりたい企画はたくさんあるんですよ。今回の作品は、その第一歩なんです。
番組情報『サラリーマンナイトフィーバー』
2月18日(土)午後8:30~11:00 CS衛星劇場
2022年8月23日~10月30日に宮城・仙台電力ホールほかで上演された舞台『サラリーマンナイトフィーバー』をテレビ初放送