本間昭光のMUSIC HOSPITAL 第7回 ヒグチアイ(前編)
ヒグチアイと考えるアーティスト人生、一歩ではなく半歩先を行く難しさ
2022.12.27 12:00
2022.12.27 12:00
ポルノグラフィティの作曲&トータルプロデュースやいきものがかりのサウンドプロデュースなど、数々のヒット曲を生み出してきた本間昭光の対談連載「本間昭光のMUSIC HOSPITAL」。本間のプライベートスタジオを舞台に、毎回セルフプロデュースに長けた若手アーティストを招いた音楽談義が繰り広げられていく。
今回のゲストは、幼少期からクラシックピアノに触れながらさまざまな楽器や音楽を経験、18歳から鍵盤弾き語りを生業とするヒグチアイ。2016年のメジャーデビュー以降、自分自身を鼓舞するような楽曲リリースを重ね、着実に支持者を増やしてきた彼女は、何に迷い、どんな壁を越えて今にたどり着いたのか。前編ではまず、これまでの音楽人生に自ら向き合ってもらった。
本間昭光(以下、本間) ヒグチさんの曲の歌詞がいいなと思って。歌詞を先に作られているんじゃないかなと思ったんです。
ヒグチアイ(以下、ヒグチ) どっちもですね。曲からの時もあるし、歌詞からの時もあります。
本間 詞先の時は歌詞を全部書いてからメロディーを書きます?
ヒグチ 2パターンあって、最初にワンコーラス歌詞を書いてメロディーを乗せるパターンと、頭の中でメロディーをつけつつ、歌詞を全部書いちゃってからメロディーをちゃんとピアノで作るパターンがあります。
本間 歌詞が自然に入ってくる曲が多くて。メロディーが先だと小節数とか譜割りがこうならないだろうなっていうのをいっぱい感じたんです。
ヒグチ どういうことか細かく教えてほしいです(笑)。
本間 自然なんです。僕は弾き語り最強説というのを持っていて。
ヒグチ え! なんでですか?
本間 自分のタイミングと表現で、一人でオーケストラになるので一番強いなって。どんなにアレンジ頑張っても、その曲を弾き語りされたりすると叶わないなって思うんですよね。間合いとか。
ヒグチ 最強ではあるんですけど、弾き語りのワンマンはみんな聞いてて疲れるだろうなと思っちゃいます(笑)。
本間 1時間半ぐらいだったら、ギリギリいけるんじゃないですか(笑)。世界観に没入できるからすごくいいなと思って聴いてました。逆にバンドでやるときは、委ねられるってことですよね?
ヒグチ もともとクラシックをやっていたので、スクエアな感じの人とは感覚が合わないんですよね。
本間 間合いがすべてじゃないですか。言葉じゃ説明できないんですよね。
ヒグチ できないし、ピアノはギターみたいにリズムを出すのが難しい。どうしたらいいんだろうなって毎回思うところです。
本間 ピアノはパーカッションですから。床を足で一発踏むだけで、ドンっと響くんじゃないですか。THE FIRST TAKEとか見ても、自分の間合いでやってらっしゃるじゃないですか。あれを理解できるミュージシャンってそうそういないですよ。
ヒグチ 間合いを合わせるのは難しいと思いますか?
本間 今20代のミュージシャンとか、本当に上手な人が多いんですけど、スクエアなんです。スクエアが悪いとは言わないけれども、むかし武部聡志さんが、Adoちゃんにインタビューをして、何になりたいのかって聞いたら、ボカロになりたいって答えてて。
ヒグチ へえー!そうなんですね。
本間 一番理想なのはボカロの初音ミクみたいな歌い手で、それが根本にあるんだっていう話をしてて。でも彼女はそこにオリジナリティがあるじゃないですか。間合いのとり方とか、ニュアンスであったり。
ヒグチ 子音と母音の組み合わせによって、発音が遅くなるんですよ、私は。そこが自分の弱みだとずっと思っていて。
本間 それが個性なので全然いいと思いますよ。日本語ってもともとまろやかな言葉なのでハキハキ歌うのもいいけども、ヒグチさんのような発声・発音で歌う方が、語り部のような感じで。自分のペースでやる、つまりは言葉が伝わりやすいペースを自分でコントロールしている部分があるんじゃないかと思うんです。
ヒグチ 言葉に対する潔癖みたいなところが歌い方にも出てるのかもなと思うと、もう14年もやってるので、ちょっとあきらめました(笑)。
本間 できなくて当然ですよ(笑)。そんなに幅広くっていうのは。だからアーティストは唯一無二になると思うんですよね。あれもこれもやっちゃうと、何がその人の顔かわからなくなることってあると思うんですよ。それが売りの人もいますけどね。だけど、お客さんが求めるものっていうのは14年間の中で培われてきたし、きっとファンの皆さんの中にも育っていて。でも色々やりたくなるっていうのはすごく理解できます(笑)。飽きっぽいんですよね。アーティストは。
ヒグチ わかります。
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