“生きづらさ”に葛藤しながらも前に進もうとする主人公の物語
伊藤万理華が向き合う自分の価値観、玉田真也監督と映画『そばかす』撮影を振り返る
2022.12.15 18:00
2022.12.15 18:00
伊藤は作品にとって助かる存在(玉田)
──話は変わりますが、ここまでトム・クルーズの『宇宙戦争』が会話に登場する映画ってあまりないと思います。佳純がトムの走り方が好きというエピソードはどこからのアイデアだったのでしょう?
玉田 初稿の脚本からそのエピソードはあって、トム・クルーズの話をするところに佳純の何かがありそうな気がしました。最後に佳純が、北村匠海さん演じる天藤と向かい合ってしゃべるシーンで、「なんで『宇宙戦争』の走り方が好きなんですか」って聞かれて「ただただ逃げているんです。私は逃げているほうが共感できるから」ってセリフをボーっとして言うのがイメージできて、そこに佳純が持っている空虚さを作れる気がしました。
──伊藤さんは姉妹役として共演された三浦透子さん、対面でのシーンはなかったですが前田敦子さん、それぞれどんな印象をお持ちでしたか?
伊藤 前田さん……あっちゃんは、ひとつ前に出た映画(10月公開『もっと超越した所へ。』)で密にやっていたので、その時から全てさらけ出している超人っていうイメージがあって。『そばかす』の撮影の合間にその作品のプロモーションでお会いしていたので、また「一緒だね」という話をして、安心感はありました。
透子ちゃんは、こんな形で共演できると思っていませんでした。空気感が自分と近くて馴染みやすく、演技を一緒にしているのも楽しかったし、やりやすかったです!
──それを受けて、監督から「伊藤万理華」という女優について、印象を伺ってもよろしいでしょうか?
玉田 すごくフラットでバランス感覚の高いイメージがありました。最後の感情的になるところは難しいシーンだったと思います。何度もリテイクしたんです。ただ再現性が高くて、毎回新鮮さを失わずにやれるので。座組の中心にこういう人がいると、作品にとって助かる存在だと思いました。
伊藤 ええ~(笑)。そうなんですね(笑)。
──劇中に登場する『シンデレラ』の紙芝居で、結末だけぼかされていることによってセクシャリティのみではなく、一般論として語られる「ものさし」が個人個人に当てはまるとは限らない、という思いを感じたのですが、これは当初の脚本から存在していたんでしょうか。
玉田 あそこは結構変えました。初稿の段階ではもう少しセクシャリティの面が強い内容になっていました。『シンデレラ』はもともと、王子様に見染められることをよしとする結末の話で、それって女の人にとってどうなの? という批判のストーリーになっていたんです。でも、それだと佳純の話とちょっとぶれるなと思ったんです。佳純の抱えている葛藤は自分には自分の感覚があって生きているのにそれが認められないってことだと思うので、だから修正しました。
──ありがとうございます。伊藤さんは自分だけの幸せにという意味の「ものさし」ってありますか?
伊藤 なんですかね……。昔はよく個性的だねって一言で済まされてたので、それが生きづらかったです。だから、自分の趣味とかは、理解されない部類なんだって思って生きてきました。でも自分の幸せとかはそこで消化してて。好奇心があるからいろんなものが好きなんです。部屋に物が多くて、お部屋に全て出ていますね自分が。
──それが、先ほどおっしゃってた初号を見て泣いたことにつながったりしますよね。
伊藤 そうですね。自分がずっと向き合ってきたテーマが実は『そばかす』と一緒だったということを、作品を見て思いました。撮影をしているときは睦美だから、自分自身と向き合っていたんですけど、作品全体を見て、皆さんのやり取りを見たときに、すごい映画だと思いました。
──ありがとうございます。では最後に、監督からメッセージをお願いします。
玉田 僕はこれで監督作としては3本目ですけど、今回の映画は特に面白くできたという手ごたえもあるし、僕の好きなエンターテイメントの形になった気がしていて。このテーマに引っ張られてくる人もそうだし、単純に映画が好きで来る人とか、いろんな人に見てもらいたいと思います。