2022.11.26 17:00
中央:《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》2012年
2022.11.26 17:00
「自/他」と「記憶」
「自/他」では、大竹伸朗が9歳の頃に制作した最初期のコラージュ作品から、国際美術展に展示された大作まで、文字通りこれまでの半世紀近くにおよぶ大竹自身を映し出す内容となっている。ここで最も強烈な印象を与えるのが、5年に1度開催されるドイツの国際美術展「ドクメンタ」で2012年に展示された《モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像》だ。赤い文字で「モンシェリー」と書かれた、緑に輝く看板がついた小屋と、その後ろに接続された赤いトレーラーハウスがセットとなったインスタレーション作品である。
小屋の上には大きな拡声器。小屋を覗き込んでみると、そこには大きなスピーカーの前にエレキギターがあり、音を感じさせる。壁の外側と内側には、ぎっしりと広告物や雑誌の切り抜きらしきものが貼られ、タイトル通り小屋型のスクラップとなっている。そしてこの見る者を圧倒する強烈な個性とエネルギーを放つ存在は、まさに大竹自身を表しているようだ。
会見で《宇和島駅》について語った時も、
「80年代半ばごろ、東京にいた時に、妻が東京国立近代美術館にゴーギャン展を見にきて、彼女がじっと窓の外を見ていて、どうしたの?と聞いたら『今、高速を宇和島って書いたトラックが走っていたの』と言っていて(妻は宇和島出身だ)。それを聞いて、僕は高校を卒業した後、牧場へ行っていたのだけれど、そこが炭鉱町で。そこの本屋で銀座や新宿っていう文字を見たときに、ぐっとくるものがあってね。ということを思い出して、その後10年以上経った90年代に、宇和島駅が新しくなるというので写真を撮りに行った時、駅のサインが廃棄されるというので、別に作品にするつもりはなかったのだけれど、文字の看板をもらったんです。駅舎に登って、一文字ずつ焼きつけてロープで下ろして。それで保管していたんです」
と、大竹は30年以上前の記憶を昨日のことのように回想していた。途方もない数の作品をつくり、それぞれがゴミとされるようなものや印刷物の断片で構成されていても、その物質が孕む記憶と大竹自身の記憶がリンクしているのだろう。
「時間」と「移行」
大竹伸朗の作品は、およそ半世紀にわたる制作活動の時間がそのまま全て反映され、時間そのものが詰め込まれているようにも感じられる。また、「網膜」シリーズなどに代表されるように、同じ題材の作品を何十年もの間にいくつも制作し、本人もまた自分が歩んできた時間を行き来しているようだ。
一方で国内外での旅も続けてきた大竹はそこにある土着的な素材を集め作品をつくり、代表作の《ニューシャネル》のように、そのものを別の場所へと転移させることで成り立つ作品も制作してきた。「新宿のクリーニング屋のカッティングシートに自分が感激したら、もうそれは『新宿』ってタイトルになるんです」と大竹が言うように、「ニューシャネル」の文字が元から貼られたスナックのドアも、大竹の記憶に強く刻まれたからこそできた作品だとわかる。
「ジャーナリストの都築響一と一緒に、1ヶ月半に1回くらいの頻度で一緒に全国を回っていて。秘宝館やラブホテル、パチンコ屋とか、到底アートではない、人から嫌われるようなところに興味があったんです」
大竹にとって、移動し、アートからかけ離れたものに触れることからもインスピレーションを得ているのだろう。
「2009年に発表した《直島銭湯 I♥湯》のゾウも、北海道・定山渓の秘宝館に展示されていたもの。見た時は生きているのかと思って、こいつはすげえなと思って。それで銭湯の話が来たときに、真っ先にそのゾウが思いついたんです」
と振り返るように、移動によって見つけたものを転移させ、移行を成立させているようだ。
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