2022.11.23 17:00
2022.11.23 17:00
2019年のメジャーデビュー以降、映画、ドラマ、アニメ、CMなど様々なタイアップソングを書き下ろし、その作品との高い親和性に定評を集めているシンガーソングライター・Sano ibuki。彼が6曲入りミニアルバム『ZERO』を完成させた。
今作は一つひとつ楽曲制作にじっくりと向き合ったうえで生まれた楽曲たちがコンパイルされている。過去作『STORY TELLER』と『BREATH』のように、コンセプトやプロットを綿密に立て、明確なテーマに向かって制作を進めた制作とは異なりながらも、バリエーション豊かな作品に仕上がった。彼にとって原点回帰的な作り方で生まれ、「常に自分は出発点に立っている」という覚悟と意思表明が込められた今作は、どんな背景から生まれたものなのだろうか。ロングインタビューで迫った。
──メジャーデビューから3年経ちましたが、この3年間はどのような期間でしたか?
ひたすらに長い3年間でした。10年くらいに感じる(笑)。
──珍しいですね。こういう時は「あっという間でした」と答える方が大多数なのに。
あははは。1個1個が濃すぎて、そのぶん時間を長く感じたんだと思います。年を重ねれば重ねるほど、時間の流れが遅くなっているような気がする。コロナの影響もあるのかもしれません。デビューしてすぐにコロナ禍に入って、家から出ないでひたすら曲作りをしていたので、制作に没頭すればするほど時間を長く感じたところがあったかもしれないですね。そういうものも全部、『STORY TELLER』(※2019年11月リリース/メジャーデビューアルバム)の東京ワンマンができなかったことが影響していると思います。
──2020年2月に東阪で開催予定だった「Sano ibuki LIVE “NOVEL”」ですね。大阪公演は開催できたものの、東京公演は振替公演も中止になってしまった。
線のようにつながってきていた音楽活動が、あの中止でパシンとハサミで切られたような気がしたんです。それで気持ちが宙に浮いたような、もやもやした感覚になって。これをどこかで発散させなきゃと思ったし、Sano ibukiとして届けるものの正解は何だろうとあらためて向き合うことも増えて、その結果『BREATH』(※2021年7月リリース)というアルバムが生まれたんです。
──「『BREATH』は私小説的な作品になった」と、当時のインタビューなどでも語られていました。
『STORY TELLER』までは主人公のプロットまで立てたうえで楽曲で物語を作っていて、それでもその中に自分の経験や考え方、価値観はある程度反映されていたんですよね。『BREATH』は物語の中に入る僕の意志が多くなって、それゆえに私小説的な作品になったんだと思います。だから「このアルバムをSano ibukiの入り口にしてくれて大丈夫です」という意味でも、「Sano ibukiのポップとは何か?」を重要視して作ったという意味でも「ibuki」のセルフタイトル的な意味合いで『BREATH』と名付けたんです。
──「私小説」という意味でのセルフタイトルではなく、「音楽家・Sano ibukiが作るポップス」という意味でのセルフタイトルということでしょうか。
そうですね。自分なりのやり方で、自分の思う「普遍的」「大衆的」を突き詰めたのが『BREATH』です。でも今作の『ZERO』はある意味そこから解放されたように作ったんですよね。ポップを重んじるだけではなく、この曲を届けるうえで自分の価値観をどう出していくのか、普遍性に何を組み合わせてそれを作るのか──そういう考え方にシフトした気がしています。
──そのマインドと、以前からSanoさんがよくおっしゃっている「音楽でもっと遠くに行きたい」はイコールになりますか?
もともと僕は自分の感動した景色や感覚を表し伝えることで、誰かの感情を揺らすことができたらと思っていて、それにいちばん適しているのが音楽だと思っているんです。僕にとっての「遠く」は「僕が全然知らない人の側」なので、「遠くに行きたい」というのは「知らない誰かの近くに行きたい」という意味でもあるんです。やっぱり音楽は人に触れてもらって、ようやく完成するものかなと思っていて。
──それは「聴いた人がそれぞれの解釈をすることで楽曲が育まれていく」ということですか?
というよりは「触れてもらえないと意味を成さない」と思っています。そもそも音楽は自己満足で、僕は納期がなかったら一生かけて1曲を作り続けていると思うし、それでも完成しないのが音楽だと思うんです。自分の知らないところに飛び立つことでようやく音楽は始まると思うし、聴いてもらえるという状況が僕にとっての「届く」です。届いた後はどんなふうに受け取ってもらっても構わないし、嫌いだなと思ってもらっても全然いいんです。あわよくば僕の楽曲が聴いた方自身の音楽になってくれたら、聴いてくれた人が自分ごとにしてもらえたらうれしいですね。
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