2022.10.26 18:30
2022.10.26 18:30
初顔合わせとは思えないバンド感
イントロのピアノで意外な選曲への拍手が起きた「僕の心のありったけ」。花咲くようなメロディが映画音楽的なドラマ性を備え、しかもその部分のコーラスも見事。華やかなだけでなく、メンバーの音楽的な筋力に唸らされる。一転、ノワールなシンセとギターリフのユニゾンでレトロフューチャーな気分へ意識を飛ばされるインストの「ブロッコロロマネスコ」でもバンド感を堪能できた。本当にこれが初顔合わせのライブなのか。恐るべし、KIRINJI楽曲のミュージシャン吸引力である。
1曲ごとに異世界転生しつつ、曲構成が持つポップネスで地面に足が着いているような不思議な体感をもたらす今回のメンバーと楽器編成。で、ありつつMCではメガネのことに触れ、「手元はよく見えるんだけど、すると曲順表が見えない……すぐね、老いの話になってしまうから、メンバー、若い人呼んだりとか」と笑いを誘う。
グッとポップで楽しいゾーンへ「雲呑ガール」で突入し、腰を揺らす千ヶ崎の生ベースにシンセベースも加わり、もうダンスが止まらない。繊細な歌のフロウもグルーヴを作っていく「「あの娘は誰？」とか言わせたい」ではハンドクラップが起こり、カタカナ時代のメロディの特徴がパーンと広がる「Golden Harvest」につなげていくのだが、ここでもベースのローのねちっこさがバンドサウンドをグッとアップデート。
続く「都市鉱山」のテクノ／ニューウェーブテイストのあるファンクは2022年の今、まさに気分だ。というか、どの曲もどの曲もメロディに驚きがあり、リズム隊のサウンドが最新なのだから体が揺れずにいられないのだ。エンディングの拍手喝采を受けながら、スリリングなラップチューン「The Great Journey」へ。よく動くベースラインが支え、音と声のレイヤーが巻き上がっていく。グッと生身のエネルギーを放出してこの夜のハイライトを作り上げた。
「最後の曲です」というコールに「えー！」とリアクションがあるのも久々。本編ラストはカームダウンして、新曲「Rainy Runway」を披露。新たな気持ちと服と靴と髪色で出かけよう、お守りとして折りたたみの雨傘は持ちつつも、という、少しの不安を抱えつつも歩き出す気分をこれぞKIRINJI節なテンポやコード感で描き出し、ラストにこそここから始まるムードを残したことに、今の高樹のモードが見て取れたのだった。
アンコールでは「悪玉」の全てのパートを一人で歌うという、コアファンですら驚きの選曲も盛り込んで、大いに沸かせた。新旧のレパートリーからこのメンバーで生きる選曲を行い、アップデートされたバンドサウンドで表現した今回。世代を超えて音楽で会話ができることを証明する今のKIRINJIをチャンスがあればどこかでキャッチアップしてほしい。12月のTAHITI 80と2マンはどんな演奏になるのだろう？ 期待は尽きない。
写真：藤井拓
セットリスト
KIRINJI LIVE 2022
2022年10月17日(月)東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
1. だれかさんとだれかさんが
2. 非ゼロ和ゲーム
3. 新緑の巨人
4. killer tune kills me
5. タンデム・ラナウェイ
6. 薄明
7. Almond Eyes
8. silver girl
9. 僕の心のありったけ
10. ブロッコロロマネスコ
11. 雲吞ガール
12. ｢あの娘は誰?｣とか言わせたい
13. Golden harvest
14. 都市鉱山
15. The Great Journey
16. Rainy Runway
EN1. 再会
EN2. 悪玉
EN3. 時間がない
