2022.10.17 12:00
2022.10.17 12:00
ウィルスごときに自分の創作を左右されたくなかった
──そういう意味では、前作の『バイエル』もしかりですが、今作も批評性をすごく感じるところであって。『バイエル』と『戀愛大全』の連作感は感じざるを得なかった。前作がある意味ノンフィクションで、今作がちょっとフィクション寄りというか。
やっぱりここ2、3年はコロナ禍で、周りの状況もずっと変わらないからね。前作『バイエル』のときは、自分たちが生きてるうちに起こるなんて思ってもなかったSFみたいな事態が起こったわけで、それだけでいくらでも曲が書けたというか。こういう時代に自分は作品を残すのねって。不謹慎ながらそういう昂り(たかぶり)みたいなものはあったんです。
──やっぱそういうのはあったんですね。
ありましたね。変な話、大きい戦争があった後に、ピカソのゲルニカじゃないけど、ものすごい名作がたくさん生まれた歴史があるじゃないですか。でもここ最近は特に変なことばっかり起こるから、そこに書かされるっていうのも何か気に食わなくなっちゃって。ウィルスごときに自分の創作を左右されたくないっていう気持ちになってきたというか。だから、何もなかったかのように作ろうと思って。でも、何もなかったように振舞うっていう影響を受けてしまってるとも言えるから、世界の情勢の影響を受けずにものを作ることは誰にも不可能だけど、せめてそう見える聞こえるものが作れたらというのが今回のアルバムですね。
──改めてディスコグラフィーを振り返ってみても、本当創作欲が止まらんというか、ほぼ毎年と言っていいぐらいアルバムを出してますよね。
1年に1枚は出してますね。
──前作『バイエル』の、どんどんアップデートされていく、しかもそれが37分台という凝縮させた濃密な体験の作品を作ってしまったら、大体2、3年ぐらいアルバム出さないのがミュージシャンの常なのかなと思っていたので驚いたというか。
そんな大御所みたいなペース、性に合わないもん。それにこの世は資本主義ですから、作らざるをえんみたいなところもある。もちろん創作意欲だってあるけど、音楽産業のサイクルの中で自分がどれだけすり切れないでいられるかっていうトライアルが自分は全く嫌じゃないので、毎年作れって言われたら喜んで作るし。だから、スランプに陥って曲ができないとかはあんまりない。
──表現者であり、プロの音楽家としての矜持もあれば、トライアルでもありたいなというところだったんですね。
そこで潰れるタマではないという矜持もあるかも知れない。
──今作を聞いたときに、志磨さんは本当に愛に溢れた人っていうイメージが湧いて。ある意味、未曾有の事態すらも包み込んで、コロナウィルスすら愛の対象として書いているような匂いを感じたんですよね。ウィルスだってオケラだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ友達なんだの精神で、生命体としてのウイルスちゃんはかわいそうだよねって。
何がしかの共生であるわけだからね。
──お前嫌われもんだろうけど、このアルバムは『戀愛大全』だから、ある意味「Love ウィルス」ではないけれど。そういう正しい意味でのドリームポップ的な世界をジャケットが表しているような気すらして、すげえしびれました。
さっき言ったようにここ何年もずっときな臭い時代が続いてて、何かあるたびに何々派と反何々派がこっちが正しい、いやこっちが正しいってずっと争ってるじゃないですか。最近もほら、フェスで声を出すべきか出さないべきかだとか。で、例えば自分がフェスで声を出す派、出さない派のどっち派か?って言われたら、フェスに行かない派なんですよ(笑)。
──ははは!
どちらでもなくていいんだよ、みたいなモノの見方を教えてくれる作品が僕は好きだったので。世間の話題についていけず、蚊帳の外で手も上げられないノンポリってすごく恥ずかしいことのように感じるけども、そういうことも肯定してくれるものが好きだったから、自分もそういうものが作りたい。それで今回のアルバムは『戀愛大全』と銘打っているくらいだから『戀愛』がテーマなわけですけど、今時そんなこと言ってる場合じゃないでしょっていうものを僕は作りたかったんです。そんな話してる場合じゃないよ、コロナで大変なんよ今、っていうときに、そういう話をする、できる人でありたいってことは思います。
──僕は強硬的な考えがタカ派、穏健的な考えがハト派、どっちでもない人をフクロウ派なんて言葉があって、それを用いるのが好きなんですけど、仰る通りこのアルバムは白でも黒でもないグレー、自分の言い方だとフクロウだなみたいな。志磨さんを支持されている方々なんかもフクロウ派が多いのかなみたいなことを感じていて。
だからライブもひとりぼっちで来る方が多いですね。恋人でも友達でもいいから誰か連れて来てくれたら、集客数が単純計算で今の倍になるんですけどね(笑)。恋人とうっとりしたり、友達とパーティーで騒ぐ時に聞く音楽じゃないんでしょう、きっと。
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