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関根勤のマニアック映画でモヤモヤをぶっ飛ばせ! 第4回

千葉真一から聞いた面白エピソードと共に振り返る『激突!殺人拳』

2022.08.26 12:00

2022.08.26 12:00

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日本から出た数少ないスター、千葉真一と周りのレジェンド

日本からスターになった人ってまず三船敏郎さん、その後は石原裕次郎さん、そして勝新太郎さんが『座頭市』で知られた感じですよね。タランティーノ監督も彼が好きみたいです。千葉さんはその次くらいに海外進出した役者かな。彼の場合は純粋な体のアクションでスターになって、本当に向こうでは当たりましたからね。だから千葉さん、言っていましたよ。「10年早く生きたかったよ」って。当時は東映が彼を専属契約みたいな形で離さなかったんですよ。彼が出る映画はヒットするから。ハリウッドからオファーが来ても、出演できない状態だった。いっぱい話は来ていたはずなんですよ。で、ようやく海外進出できたのが40過ぎて45歳くらいだから、勿体なかった。

クエンティン・タランティーノ監督と千葉真一(写真: ロイター/アフロ)

千葉さんから聞いて忘れられない話はいくつもあります。例えば、彼の先輩の高倉健さんとのエピソード。千葉さんが若い頃にバス停で待っていると、ポルシェでやってきた高倉さんが「おい千葉、乗ってけ」って言って拾ってくれていたんです。すると、ある日突然「お前、パンツは何を履いているんだ」って聞かれた。「普通のパンツです」と答えると「ダメだよお前、スターは下着もちゃんとしたのを履け」ってイタリア製のパンツを買ってもらったらしいんです。それでもう千葉さん、「かっけぇ……」って心酔しちゃって。その頃は彼もスターになる前のまだ若い頃で、2年間高倉さんの鞄持ちをしていましたからね。アクション映画俳優の第一人者でもあった先輩から、いろいろ学びたかったらしいです。

で、これまた高倉健さんも健さんでストイックなんですよ。これは千葉さんの後輩から聞いたお話なんですけど、当時は映画が第一の娯楽だったので映画雑誌もたくさんあって、スター同士の対談がよくありました。そういうとき、例えば東映と東宝のスター同士だと真ん中ぐらいの距離のところで会って対談をするなど、お互いに気を使い合うわけですよ。

そこで高倉健さんに対談の話が来たところ、健さんは「三船敏郎さんと対談したい」とリクエストした。「わかりました」ということで、スケジュールを合わせてみるとお互い忙しい。すると、なんと1日だけ三船さんが東映に行ける日があるから、「俺が東映の撮影所に行くよ」と言ってきたんです。健さんはそこで撮影があるわけですよ。もう恐縮するし、大先輩が東映に来てくれるって言うのでソワソワしちゃって、しかも撮影が押して2時間くらい待たせてしまった。
「三船さん、すみませんでした!」と、駆けつけたら「いやいや、俳優は待つのが仕事だから」と一言、「東宝の三船敏郎です、よろしくお願いします」って言ったらしいんですよね。「あれ、三船さん、付き人の方は?」と聞くと、「いや、自分一人で来ました」と言うものだから、それに健さん「かっけぇ……」と感銘を受けてしまった。だから次の日に三船さんの真似して付き人二人をクビにして、それから自分も「東映の高倉です」って言うようになったらしいんですよ(笑)。そういうレジェンドの中で揉まれていったからこその千葉さんのスター性もあると思います。すごいですよね、

あとね、千葉さんがよく僕に話してくれていたことで印象的だったのは、彼がとにかく俳優である前に“監督”だったことです。「関根くん、僕は新しい『キイハンター』を撮りたいんだ」っていつも言ってね。するとカット割から全部説明してくれる。もう頭の中で全てできているんですよ。後は予算が組めるかどうかの話になのですが、他にも「クノイチの映画をやりたくて、もうアメリカの女優を二人オファーしているんだ」ってストーリーを話してくれる。もう全部できていて、あらすじも書いて映画会社に提出している。常に会うたびに3つ4つやりたい案件があるんですよ。千葉さんに撮りたい映画、撮らせてあげたかったなあ。

彼はね、深作さんのもとで自分の出番がない時にずっと横で監督の動きを見ていたらしいんですよね。映画は監督によっていろいろな撮り方があって、例えば黒澤明さんは絵コンテを書いて、自分の思い通りの世界を俳優に演じさせる手法です。だからアドリブなしで彼のビジョンにかっちりはめていくスタイル。一方で深作さんはまずリハで「はい、好きなようにやって〜」と俳優陣に言って、千葉さんがその横で見ている。すると「千葉、いいなあれ。あれ使おう」って監督が言うんですよね。みんながノリでやってよかったやつだけを、採用する。それを千葉さんは「こういうやり方があるんだ」って常々吸収していた。

そんな千葉さんから聞いた話でもう一つ面白い話があります。『柳生一族の陰謀』で丹波哲郎さんと共演した時のことです。深作さんが監督で、丹波さんが現場にやってくるや否や「やあ、おはよう。マネージャー、台本ちょうだい?」って言う。台本の封を切ってないんですよ。千葉さんたちは全部役作りして、台詞を覚えてくるじゃないですか。でも丹波さんはその場で台本を初めて開いて、「で、俺の役はどれだ?」って言うんです」。深作さんもこれには参っちゃって。教えてもらって丹波さんは「ハイハイ、これね」って具合に暫く読むと「千葉、いくよ」って声をかけて、撮影開始となる。しかし、台詞を言い出しても「……で、なんだっけ?」って止まるんです。千葉さんが「全然覚えてこないんだよお、まいったよお」って愚痴る。ところが、ラッシュをみると丹波さんが台詞を思い出している部分が「間」になっているんですって。だから千葉さん、「いや悔しんだけどさあ、映像になるとさあ、いいんだよ丹波さんはあ……!」って言ってました(笑)。ただ、千葉さんはそう言っているけど実はポーズで二つの台本をもらっていて、丹波さんはキッチリ覚えてきているのではないかという噂もあるんですよ。「俺はいい加減なんだぞ」ってわざとやっているって。恥ずかしがり屋なのかな?(笑)。とにかく千葉さんの周りは面白い人ばかりですよ。

そんな彼がなぜ世界に認められたのか。『激突!殺人拳』で千葉真一の真髄をぜひ観ていただきたいと思います。

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作品情報

激突!殺人拳

『激突!殺人拳』DVDパッケージ

『激突!殺人拳』DVDパッケージ

激突!殺人拳

公開年:1974年
英題:The Street Fighter
上映時間:91分
製作・配給:東映

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スタッフ&キャスト

監督:小沢茂弘
脚本:高田宏治・鳥居元宏
出演:千葉真一、中島ゆたか、山田吾一、トニー・セテラ、遠藤太津朗、石橋雅史、千葉治郎、志穂美悦子、鈴木正文、川合伸旺、風間健、角友司郎、ユセフ・オスマン、風間千代子、大前均、天津敏、渡辺文雄
音楽:津島利章
撮影:塚越堅二
編集:堀池幸三

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