伝統を守りながら“歌舞伎の革新”を追求
中村獅童、念願の新橋演舞場公演は「日々、戦い」。『超歌舞伎2022 Powered by NTT』開幕
2022.08.23 08:00
2022.08.23 08:00
③『超歌舞伎』は、歌舞伎の「未来」を見据えた挑戦の1つ
初めて新橋演舞場に進出する、その思いについて会見で中村獅童に聞くと「僕らにとっては日々『戦い』です」と返ってきた。
「これまではイベントの一環としてやってきたものが、こういう劇場に進出することによって、今までのように『サブカル好きの若者』に喜んで頂くと同時に、これまで歌舞伎を観てこられた古典好きの方にも納得していただけるかどうか。そこは日々戦いです。だから『キワモノ』で終わりたくない」(中村獅童)
発足当初の『超歌舞伎』はニコニコ超会議で来場者とニコニコ動画の視聴者が自由に観られる「いちイベント」であり、歌舞伎を観たことがない若者たちが「なんか面白そう」「初音ミクが出るなら」と足を運んだり上演を視聴した結果、ここまでのコンテンツに成長したという経緯がある。コロナ禍前はイベントホールに「萬屋!」「初音屋!」「紀伊國屋!」と大向うが飛び(中にはNTTを示す「電話屋!」も)ニコ動の配信画面もコメントと大向う、拍手で埋め尽くされる。かつて歌舞伎が人々の娯楽の中心にあった時代、観客の熱狂はこうだったのでは……そんなことを思わせる光景が『超歌舞伎』にはある。だからこその上記の言葉であり、これをきっかけに新たな歌舞伎ファンが産まれれば作り手冥利に尽きるのだろう。
また、この『超歌舞伎』は「才能ある若手歌舞伎俳優たちに活躍の場を提供したい」という思いもあるという。未だ格式が重んじられる歌舞伎界では、名のある家の出身者や門弟でないとなかなかチャンスが巡ってこないのが現状。そんな中、この『超歌舞伎』では澤村國矢という新たなスターが生まれ、今回の公演も役替りで彼が主演を勤める「リミテッドバージョン」も上演される。そういった若手歌舞伎俳優や弟子たちにも活躍の場を与えたい、微力ながらも歌舞伎界を変えていきたい……記者会見でもそう語った中村獅童。『超歌舞伎』の舞台には、彼のそんな思いも込められているのだ。
中村獅童にとってこの新橋演舞場というのは2001年には『浅草パラダイス』で故・中村勘三郎や柄本明、藤山直美といった錚々たる面々に“揉まれ”、2004年に『丹下左膳』で初めて座長をつとめたという思い出深い場所。そんな場所でこの『超歌舞伎』をかけることができる、そこには喜びや緊張、さまざまな感情が渦巻いているに違いない。今回、通し稽古の合間に当時の思い出をたくさん語っていたが、まさに“万感の思い”といった体だったのが印象的だった。ちなみにその『丹下左膳』のカーテンコール、ザ・ブルーハーツの『僕の右手』に合わせて舞台上を走り回っていた彼だが、その“獅童ちゃんスタイル”は未だ健在。この『超歌舞伎』でもカーテンコールで縦横無尽に走り回る彼の姿が見られる。
実は舞台上で使われているNTTの最新技術がものすごいとか(今回は『超歌舞伎のみかた』で中村獅童をデジタル空間に再現する「獅童ツイン」が登場)、親子共演となる中村獅童の息子・小川陽喜君4歳がとにかく愛らしくて釘付けになってしまうとか(見栄を切る仕草も堂に入っていてお見事!)、今作が「バーチャルな存在の生と死」といういかにも初音ミクならではの題材なのも注目とか(ヒーローショーを意識したというアクションも見応え充分)、語りたいことは山盛りにあるのだが、まあ結論としては「『超歌舞伎』、めちゃくちゃ楽しいよ」ということが伝えたいわけなので、とにかく新橋演舞場に行けばかつてない体験ができることを保証して締めくくろうと思う。あ、ペンライト購入はお忘れなく!