唯一無二のファンタジー・コメディーが開幕
吉岡里帆が初の主演舞台で体現する“岩崎う大ワールド”の魅力とメッセージ
2022.07.23 14:30
（左から）岩崎う大、鞘師里保、吉岡里帆、伊藤あさひ、ふせえり
2022.07.23 14:30
絶妙なキャスティングと“う大”演出の裏側
また今回は初のプロデュース公演だけに、普段の劇団公演とは異なるキャスティングでう大作品を味わえるのが興味深い。まず主人公・緑を演じた吉岡里帆がはまり役！ 美人だけど不器用でお人好し、愛想笑いが張り付いているような役柄がとても似合い、突然異世界に迷い込むコミカルな姿が今回のファンタジーテイストと絶妙に合う。物語のために「いい子」に育てられたという悲哀もどこか感じさせるクロエ役の鞘師里保、見た目はいいのに『スルメ姫』成就のために不遇な目に合っているトム役の伊藤あさひなど、俳優自身のキャラクターと役柄のマッチングがどれも大きな魅力となっている。名バイプレーヤーであるふせえりともに、う大自身が舞台上を時折かき回しているのも面白い。
初日前の記者会見では、出演者たちがう大のに演出の細かさ、たとえ話の独特さを暴露する一幕も。「この役はう大さんの分身」と語る吉岡からは「台本がペンで埋め尽くされてしまって、白かった台本に赤や青、色がたくさん付きました。今までで一番メモした台本かもしれない」と言われ「いや吉岡さんが細かいところまで言ってくださいって言うから」とう大が反論。劇団員の小椋大輔が稽古中、う大の言葉を一言一句逃さないためにレコーダーを置いているという話が吉岡から出て「あのレコーダーのおかげでハラスメントに気をつけられるんです」とう大が自嘲すると、「いや優しいよ！」とふせえりや吉岡があわててフォローするという一幕も。それほどまでに細部にまでこだわった演出がこの舞台を産んでいるのかと、納得するやりとりだった。
新型コロナウィルスの流行で、あちこちで公演中止が相次いでいる演劇界。この日も「無事に初日を開けられそうだなということにホッとしている。あとはちゃんと全部やれたらいいなというおごそかな気持ち」とう大が会見で語ったように、作り手たちがは日々祈るような気持ちで舞台を送り出しているのは想像に難くない。その心意気含め、劇場で“う大ワールド”をぜひ思う存分浴びてほしい。きっと観終わった後には、あなたの常識や価値観が少し揺らいでいるだろうから。
