2022.07.21 12:00
ドミコ(撮影:小杉歩)
2022.07.21 12:00
さかしたひかる(Vo, Gt)と長谷川啓太(Dr)からなるデュオ、ドミコの勢いが止まらない。
昨年10月13日にリリースしたアルバム『血を嫌い肉を好む』をひっさげ、全国12ヵ所を回った「血を嫌い肉を好むTOUR」を、12月14日、新木場STUDIO COASTで締めくくった彼らはそこで一段落とはならなかった。
今年3月19日にドミコ史上最大のキャパとなる日比谷野外大音楽堂公演を成功させた彼らは、そこでもやはり一段落とはならずに「続・血を嫌い肉を好むTOUR」と銘打ち、今度は全国17ヵ所を回るツアーを5月21日からスタートさせた。ワンマンで臨む沖縄、東京、大阪以外は各地、ライブ・シーンに台頭してきた新たな猛者達と渡り合いながら、自分達をさらに高めようということなのだと思うが、ツアー・タイトルでも謳っているとおり、今一度、『血を嫌い肉を好む』の曲を軸にしたセットリストでツアーに臨むのだから、よっぽど『血を嫌い肉を好む』というアルバムに自信、および愛着があるのだろう。
そんなことも思わせたツアーの東京公演が7月10日、渋谷Spotify O-EASTで開催されたので、その模様をレポートしたい。
この日、収録されている全12曲の中から10曲を披露した『血を嫌い肉を好む』の楽曲は今回、どんなふうに進化を遂げていたか。前回のツアーを見ている人達にとっては、そんなところも見どころだったはずだが、それはさておき、急遽、サポート・アクトを務めることになった鋭児が作ったサイケデリックなグルーブが渦巻く中、ドミコのライブは『血を嫌い肉を好む』収録のファンク・ナンバー「解毒して」でスタートした。
クールにリフレインを重ねながら、しかし、しっかりと熱を高める演奏に観客が早速、体を揺らし始める。そして、その「解毒して」をシャウトで締めくくったさかしたは観客の拍手に被せるように、「ドミコです。よろしく!」と声を上げると、長谷川のドラムに応え、小節の終わりに加えるトレモロ・ピッキングがあまりにも印象的なギター・リフを閃かせる。《こんなのおかしくない?》と曲のタイトルを繰り返すキャッチーなサビを持つ人気曲に観客の気持ちがアガらないわけがない。
まさに掴みはOK。序盤から観客の気持ちを掌握した2人がそこから2時間、「サンキュー!」以外は、ほぼ一言も言葉を発さずに波打つように揺れるスタンディングのフロアに投下したのは、前述したとおり、『血を嫌い肉を好む』からの10曲に新旧のレパートリーを織りまぜた全17曲だった。
足元のループ・マシーンを使って、幾重にもリフを重ねがら、曲ごとに鳴らす、歪みだけにとどまらない多彩な音色とともにロック・ギターの醍醐味を存分に味わわせるさかしたと、そんなさかしたのギターと1つになったり、取っ組み合ったりしながら、パワフルにドラムを鳴らす長谷川――そんな2人のアンサブルのユニークさ、いや、無敵さを、ドミコのライブの見どころとすることに異論がある人はいないとは思うが、もちろん、見どころはそれだけにとどまらない。
グランジなリフを持つ「猿犬蛙馬」、ミッドテンポの歌ものなんて魅力もある「問題発生です」、ドミコ流サーフ・ロックの「HAVE A NICE SUMMER」といった曲ごとにトーンを変える楽曲の幅広さも彼らのライブの楽しさだ。『血を嫌い肉を好む』以外の楽曲もセットリストに加えることで、楽曲の振り幅は当然、さらに広いものになる。
たとえば、メロディアスなギターとファルセットで歌うサビがメロウな味わいをラップ・ロックに加えた「ロースト・ビーチ・ベイビー」。たとえば、ギターのリバービーな音像がサイケ味を帯びる「くじらの巣」。たとえば、ループ・マシーンを使わずにシンプルに聴かせたフォーキーな「マイララバイ」。たとえば、ファンキーな演奏に滲むメランコリーに観客がうっとりと耳を傾けた「あたしぐらいは」。弾き語りからインプロになだれこむドラマチックな展開にニール・ヤングの「Hey Hey, My My」をフィーチャーした「深海旅行にて」。
それだけの振り幅を楽しませながら、同時にさかしたと長谷川は緊張感に満ちたインプロビゼーションもふんだんに織りまぜ、ドミコのライブに足を運ぶという行為を、特別な体験に変えていった。そんなインプロも彼らのライブの大きな見どころだ。
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