80年以上前の作品が照らす、現代人が抱える矛盾と孤独とは
笑いの奥に潜む孤独と哀愁、稲垣吾郎が“スターの業”を体現する『プレゼント・ラフター』開幕
2026.02.10 19:00
2026.02.10 19:00
時を超えて共鳴するギャリーと私たちの孤独
演出の小山ゆうなは「この人がこれを言うから面白いと感じる類のコメディ。膨大なセリフ量と格闘しながら、各人物像を丁寧に深く掘り下げて作ってきた」と稽古を振り返っていた。

それを体現していたのが、様々な角度からギャリーと関わっていく面々だ。稲垣が内面から作り上げたギャリー像は、彼らとの関わりを通じて初めて立体的な姿を現す。スターとは、誰かの視線があって初めて成立する。そんな真理を、この構造自体が体現しているようだ。
ギャリーの別居中の妻リズを演じるのは、稲垣とは初共演となる倉科カナ。「普段はサバサバしているタイプ」だという倉科のパワフルさが痛快だ。圧倒的ヒロイン力を誇る倉科が、リズとしてギャリーにズケズケとダメ出しする序盤のシーンでは、倉科の新たな魅力に触れられたように思う。それでも、リズはギャリーを完全には見捨てないし、ギャリーもそんなリズにどこか甘えているところがある。2人の関係性もまた、本作の大きな見どころだ。
リズと近しいベクトルでギャリーをうまく操縦する秘書モニカ役の桑原のベテランならではの巧さ、シーン転換の合間に武器である美声を披露する付き人フレッド役の中谷も印象的だ。

そして何より、インパクトという点で触れずにはいられないのが、ローランド(望月歩)とジョアンナ(黒谷友香)である。ローランドは脚本家志望の青年で、押しかけ同然でギャリーのもとにやってくるのだが、彼の奇抜な言動とそれにドン引きしているギャリーの構図は、思わず笑いがこらえられなくなってしまった。NHK朝ドラ『エール』の若手行員・松坂寛太役の方言とオーバーリアクションを、さらに輪をかけたような望月のコミカルな芝居が見事。若手注目株と評される望月だが、今作では「笑いを取れる俳優」としての新たな武器を見せつけた。今後の活躍がますます楽しみだ。

1幕ラストでは、妖艶な黒いドレスを身にまとったジョアンナが登場する。ジョアンナがギャリーに接触することで、事態はよりややこしくなりそう――というところで1幕は終わるのだが、休憩に入ってもなお、劇場には黒谷が放った色香が漂っていた。1幕のラストを一瞬で塗り替えてしまう、黒谷友香の圧倒的な存在感にも注目してもらいたい。
稲垣は会見で「80年以上も前の作品ですが、現代にも通じる普遍的なテーマがある。劇場でたくさん笑って楽しんでいただきたい」と語った。たしかに、この作品は笑える。だが、笑いの奥にはギャリーの、そして私たちの孤独が潜んでいる。

ギャリーのフルネームはギャリー・エッセンディーン(Essendine)。これは“neediness(必要性、依存)”のアナグラムだと言われている。誰かに必要とされたい、でも誰かを必要としたくない──そんな矛盾を抱えたギャリーは、どこか私たちの鏡のようでもある。笑って、ときに胸が痛んで、そして最後には温かな余韻に包まれる舞台『プレゼント・ラフター』。80年の時を超えて、この作品が今もなお、私たちに語りかけてくるものを劇場で受け取ってみてほしい。



