2026.02.10 18:00
2026.02.10 18:00
熊林さんが翻訳劇への先入観を壊してくれた
──演出を務める熊林弘高さんとは4年ぶりの再タッグですね。
そうです。またご一緒できて嬉しいです。
──前回は『イントゥ・ザ・ウッズ』というミュージカル作品で、今回はストレートプレイです。熊林さんとのお仕事は、古川さんにとってどのようなものでしょう?
熊林さんとお芝居をつくっていると、自分の凝り固まった考えがほぐれていく感覚があります。たとえば、『イントゥ・ザ・ウッズ』も『ピーターとアリス』も翻訳劇ですが、翻訳劇に対して、「きっちりやらなきゃ」みたいなある種の先入観が私にはありました。でも熊林さんはこれをあっさり壊してくださったんです。

──具体的にいうと、どんなふうにでしょう?
かっこよくやらせてもらえないんですよ。『イントゥ・ザ・ウッズ』で私はシンデレラを演じましたが、みなさんが思い浮かべるシンデレラ像とはまるで違うものでした。彼女は華やかな舞踏会に恋焦がれる少女ではなく、心にどす黒いものを抱えた等身大の女の子。野望を持っていて、継母に対する恨みの気持ちを抱いてもいました。
──一般的なシンデレラ像とはたしかに違いますね。
これを表現するのは大変で、熊林さんからのあるアドバイスが印象に残っています。
──どんなものですか?
「念仏を唱えるように演じてみてください」というようなことを言われたんです。
──念仏、ですか?
藁人形を手にしているようなイメージです。
──呪詛的な(笑)。
そうです(笑)。最初はわけが分からなかったけれど、とりあえずやってみました。するとシンデレラが抱える苦しみが、じわじわと込み上げてきたんです。それから、「のし上がってやる!」という強い感情も、お腹の底から湧き上がってきた。こういうアプローチの仕方があるのかと、新鮮な驚きがありました。今回の『ピーターとアリス』に関しても、まず最初に「翻訳劇の空気に囚われないでください」とおっしゃっていました。

──やっぱり海外戯曲となると、日本の戯曲とは読んだときの感触がかなり違いますよね。
ええ、まったく違います。
──日本人の感覚からすると、セリフの言い回しも独特だったりします。
詩的だったり、ユーモアに富んでいたり。純粋に「かっこいい!」と思えるセリフがたくさんありますよね。でも熊林さんの演出ではかっこよく言うのではなく、生身の人間の言葉に落とし込んでいくんです。
──人間味が感じられる言葉にしていくと。
はい。そのアプローチのひとつとして、勉強会がありました。
──勉強会?
翻訳の早船歌江子さんと熊林さんと一緒に、セリフの一つひとつを精査する会です。たとえばあるひとつの言い回しが、日本人の感覚でどこまで通じるのかについてなど、丁寧に検証していくんです。
──すごい。そんな時間が。
台本を読んでいて、つい見落としてしまいそうなポイントも、一つひとつ押さえていくんです。劇中でアリスが相手の発言に対して聞き返すシーンがあるのですが、それは言葉に対して疑問を持っているからなのか。それともうまく聞き取れなくて、ただ聞き返しているのか、とか。
──非常に細かなところまで。
このアリスは80歳なので、生理的なレベルで聞き返しただけなのかもしれません。『ピーターとアリス』では、『不思議の国のアリス』の主人公のモデルになったアリスたちでさえ年を取るということが、物語の重要な軸になっています。ほんの些細なやり取りですが、こういったところこそが大切なんですよね。

──とても興味深いです。アリスという存在をキャラクター的なものとして捉えるのではなく、ひとりの人間として捉えていこうとしているんですね。
そうですそうです。これをみんなで一緒にやっていく。私にとってははじめての経験で、本当にたくさんの学びと発見がありますね。
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