2025.12.22 18:00
2025.12.22 18:00
12月19日(金)に全国公開された映画『楓』。スピッツの名曲を原案に、行定勲監督が「秘密」をめぐるラブストーリーを描いた本作で、シンガーソングライター・十明が劇中歌カバーアーティストの一人として参加している。
物語の主人公は、双子の弟・恵を事故で失った兄・涼と、恵の恋人・亜子。精神的な混乱の中、現れた涼を恵だと思い込んでしまう亜子。真実を告げられずに「恋人のふり」を続ける涼。そして亜子にも、誰にも言えない秘密がある——。楓の花言葉「大切な思い出」「美しい変化」「遠慮」が象徴するように、秘密を抱えた二人の切なく美しい関係性を描いた本作。その物語の重要なシーンで流れるのが、十明による「楓」のカバーだ。
透徹した歌声で、草野マサムネが紡いだ歌を、新たな解釈で届ける十明。10月15日(水)にリリースされたセカンドEP『1R+1(ワンルームプラスワン)』では、「変身」をテーマにしてきた彼女が初めて“素”の自分を見せる楽曲群を発表し、新たなフェーズへと歩みを進めている。「言えない醜い気持ちや、ねじれてしまった気持ちを秘密としてしまい込んできた」と語る十明にとって、映画のテーマである「秘密」は、自身の音楽制作とも深く共鳴するものだった。
「楓」のカバーと新EPの制作が同時期に進行したことで、十明の中で何が起きたのか。スピッツの歌詞世界に感じた共鳴、映画が描く「秘密」というテーマ、自身のルーツ、そしてアーティストとしての変化について、じっくりと語ってもらった。

何かと重ね合わせて初めて見えることがある
──今回、映画『楓』の劇中歌カバーというオファーを受けて、まずどう感じましたか? 十明さんが生まれる前の名曲でもありますが。
もともと「楓」は何度も聴いたことがある曲でした。合唱曲になっていたりして、すごく馴染みのある曲だったんです。今回お話をいただいて、この曲に対して自分が感じている気持ちや、これまで重ね合わせてきた思いを、もう一度見つめ直す時間を設けました。自分とこの曲との重なりを思い出しながら歌おうという気持ちで準備を進めてきました。
──自分とこの曲の「重なり」というのは、具体的にどんなところに感じましたか?
景色に対して何か思いを馳せる瞬間があって、《忘れはしないよ》という歌詞に共鳴します。過ぎ去った日々や失ったものに対して思いを馳せることが、自分はすごく多くて。失ったものとどう向き合うか、その向き合い方をもう一度考えることができました。

──それは十明さんのソングライティングにおいても核となる部分ですよね。ご自身の楽曲制作との共通点を再確認する作業でもあったと。
そうですね。自分自身をもう一回何かと重ね合わせることで、初めて見えてくる部分があるんです。曲を生み出す時には必ず自分のことを見つめ直さなければいけないので、今回の作業は制作においても重なる部分が大きかったです。
──実は「楓」のレコーディングと、10月15日(水)にリリースされたセカンドEP『1R+1(ワンルームプラスワン)』の制作時期が重なっていたそうですね。
ちょうどEPを制作している真っ最中に、このレコーディングのお話をいただいたんです。自分と向き合っている時期だったこともあって。今回のEPは、少し素直になって、演じるだけではない素の部分を出していこうと思っていた時期でした。
「楓」を歌う時も、自分の素の部分をイメージしながら歌っていたので、少しずつ自分を出していく作業に入ったタイミングでこのお話が来て。改めて自分と向き合うきっかけになったと思います。
──EPの楽曲、特に「ねばーえばーらんど」などは、これまでの十明さんの「変身」というテーマから、より等身大の自分を見せる方向に変化していますよね。その変化と「楓」のカバーと向き合った心情に相互関係を見いだせるところがありますか?
これまでの曲は、演じるという形を取ることが多かったんです。変身して、自分ではない何かをまとうような気持ちで歌っていました。でも今回のEPの「ねばーえばーらんど」は、自分の素の気持ちを歌詞に盛り込んだ、新しい試みの一つでした。
「楓」を歌う時も同じで、もちろん主人公たちの目線はありますが、彼らを演じるのではなく、曲を聴いて受け取ったこと、映画を観て感じたことを、私自身がそのまま歌う。嘘偽りなく歌うことを意識していたので、“素”を出すという意味では共通する部分があったと思います。

──今回のカバーは、非常にミニマムなアレンジになっていますね。
監督や音楽プロデューサーのYaffleさんも、声と言葉をしっかり届けたいという思いがあったんだと感じています。この声で言葉を届けたい、そのために私を選んでくれたのかなと思うので、声と言葉がしっかり届くように、みんなで一体感のあるアレンジを作り上げられたんじゃないかなと思っています。
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