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INTERVIEW

映画『佐藤さんと佐藤さん』から考える大事な価値観とは

“気にしい”3人は現代社会に何を願う?岸井ゆきの×宮沢氷魚×天野千尋監督の本音交換会

2025.12.08 18:00

2025.12.08 18:00

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大事なのは、オーソドックスを疑うこと

──伝統的なジェンダーロールがサチとタモツを苦しめているところもあるわけですが、世の中がもう少しどうなっていればサチやタモツみたいなカップルが生きやすかっただろうなと思いますか。

宮沢 日本の昔からのオーソドックスがはたして正解なのかを疑うことが僕は大事だと思っています。人それぞれ正解は違う。だから、夫婦やパートナーに限らず、友達とか、親もそうですけど、みんなが幸せになれる形を模索してほしいですし、それぞれの出した答えに対し社会がもう少し寛容であるべきなんじゃないかなとは思いますね。みんな違ってみんないいじゃんって、心をオープンに持てるようになることが僕の希望です。

天野 この物語は私が結婚・出産したときの体験がベースになっているんですけど、それがもう10年ちょっと前。そこから比べると、世の中の価値観はめちゃくちゃ変わってきているなとは感じます。今は過渡期なんですよね。まだ母親だから子どもの世話をしなきゃとか、男だからちゃんと稼がなきゃとか、そういう規範に苦しめられている人は多いとも思うけど、この10年でだいぶ変わったように、あと5年10年したら、だいぶ楽になるんじゃないかなという期待を持っています。

岸井 誰しも個人の人生を歩いていて。このお話で言えば、サチとタモツが二人で決めたことだから、二人が良ければそれでいいんですよね。それを別の場所から関係ない人が自分の価値観を押しつけてくるのが、私にはわからなくて。誰も攻撃する必要はないし、傷つけられる必要もない。氷魚さんの言う通り、みんな違ってみんないいという道徳の授業で習ったことをみんなが受け止めて実践できれば、サチやタモツだけじゃなく、そうやって他人の人生に踏み込んで口を出す人ももっと生きやすくなるのになと思います。

──サチとタモツの間に歪みが生まれたのは、そうした社会からのプレッシャーに加えて、シンプルにいっぱいいっぱいになって、相手を慮る余裕も持てなくなっちゃったからだと思いました。ハードなお仕事に身を投じているみなさんですが、いっぱいいっぱいにならないために実践していることはありますか。

天野 うちの夫婦は日々小競り合いをしてるんですけど、そうやってちっちゃいジャブを打ってストレスをぶつけ合うことがガス抜きになっているのかなという気はします。今回の脚本も自分のことを反映して書いてるから、初期の稿では終盤でもサチとタモツが直接感情をぶつけ合っていたんですね。でもお二人と話したときに、こんなふうにぶつけ合えるのは実は健全なんじゃないかという意見をいただいて、確かにと。それで脚本も直したんですけど、そう考えたらパートナーと小競り合いができていた私は健全だったのかなと思いました。

宮沢 健全だと思います。いいなあ。

天野 でも日々はめっちゃ辛いですよ。喧嘩したくないし、イライラしたくないのにイライラしちゃうのはしんどい。

宮沢 でもそれでジャブを打ったあとはお互いにちょっとスッキリするじゃないですか。

天野 まあ、日常の感じに戻りますね。

宮沢 絶対そっちのほうがいい。

岸井 戻るのが早いんですよね。それがいいなと思って。

天野 というか、尾を引くと疲れるから、もう終わりにしようってなる。

宮沢 ガス抜きできてないと、ずっとイライラしてるじゃないですか。そっちのほうが大変かなって思います。

映画『佐藤さんと佐藤さん』より

──人との関係に限らず、お仕事においてもいっぱいいっぱいになることってあると思うんですけど、そのあたりどうしてらっしゃいますか。

岸井 私は仕事で頭がいっぱいになることが多くて。去年もそうなった瞬間があって、そのとき台湾にいたんですけど、台湾から社長に電話しました。「私、もうダメかもしれない」って。そうすると、いつも社長がぽっと救いになる言葉を言ってくれるんです。私にとってのホットラインですね。おかげでなんとかやってこられてるところがあります。

宮沢 普段のキャパというか、バロメーターはどれくらい? 空っぽになってノーストレスな時間ってある?

岸井 ないない。そんな時間はない。

宮沢 僕は常時70〜80%。たまに90%まで上がって、また70%に落ちてみたいな、オーバーはしないけど余裕がそんなにない状態が続いていて。0%になることがないのがちょっと悩みというか。仕事でも、プライベートでも、ずっとなんか考えちゃう、もっとこうしたほうがいいのかなみたいなことを。

天野 しんどいね、それは。

宮沢 そう。だからタモツもしんどいんです(笑)。

天野 私がサチみたいに言わないで(笑)。どっちもだから。どっちもあるから、私も(笑)。

──0%になる瞬間がないということですか、旅に出て一瞬全部を忘れるみたいな時間もないですか。

宮沢 ないですね。旅行に行ってても、次に控えてる作品のこととか考えてしまって。今この間にちょっと台本を読んでおいたほうがいいかなとか。

岸井 わかる〜! 思っちゃうよね。

宮沢 思っちゃう。別に読まないんだけど。こんなにゆっくりしてていいのかみたいなことを考えちゃって。昔からそうなんです。もっと適当になれたらいいんですけど。

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つい細かい性格を発揮してしまう瞬間

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作品情報

佐藤さんと佐藤さん

©︎ 2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会

©︎ 2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会

佐藤さんと佐藤さん

2025年11⽉28⽇(⾦)全国公開
配給:ポニーキャニオン

公式サイトはこちら

キャスト

岸井ゆきの 宮沢氷魚
藤原さくら 三浦獠太 ⽥村健太郎 前原 滉 ⼭本浩司 ⼋⽊亜希⼦ 中島 歩
佐々⽊希 ⽥島令⼦ ベンガル

監督:天野千尋
脚本:熊⾕まどか 天野千尋
⾳楽:Ryu Matsuyama Koki Moriyama(odol)
主題歌:優河「あわい」(ポニーキャニオン)
製作プロダクション:ダブ

岸井ゆきの

アーティスト情報

1992年2月11日生まれ、神奈川県出身。
2009年俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、CMなどで活躍。2014年、初主演を務めた映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17/森ガキ侑大監督)にて第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。映画『愛がなんだ』(19/今泉力哉監督)では第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
映画『ケイコ 目を澄ませて』(22/三宅唱監督)では第46回日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞をはじめ多くの映画賞を受賞。近年の出演作に映画『若き見知らぬ者たち』(24/内山拓也)、ドラマ「お別れホスピタル」「恋は闇」がある。

1994年4月24日生まれ、アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。
テレビドラマ『コウノドリ』(17/TBS)で俳優デビュー。
連続テレビ小説「ちむどんどん」(22/NHK)の出演で話題を呼び、初主演映画『his』(20/今泉力哉監督)では数々の新人賞を受賞、映画『騙し絵の牙』(21/吉田大八監督)にて第45回日本アカデミー賞新人俳優賞、映画『エゴイスト』(23/松永大司監督)にて第16回アジア・フィルム・アワードで最優秀助演男優賞を受賞。
主な出演作品には、映画『ムーンライト・シャドウ』(21/エドモンド・ヨウ監督)、映画『レジェンド&バタフライ』(23/大友啓史監督)、『52ヘルツのクジラたち』(2024年/成島出監督)、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(25/NHK)がある。

1982年7月30日生。愛知県出身。
大学卒業後、リクルート社を経て映画の道へ。
ぴあフィルムフェスティバルを始め、短編映画が数多くの映画祭で入選・入賞。長編映画『ミセス・ノイズィ』(19)は、隣人同士の対立という社会問題をシニカルな笑いで包み、第32回東京国際映画祭スプラッシュ部門に選出。ニューヨーク・ジャパンカッツ観客賞、日本映画批評家大賞脚本賞を受賞。脚本家としては、アニメ「紙兎ロペ」(12〜16/CX)や「ヒヤマケンタロウの妊娠」(22/Netflix)、「天狗の台所1・2」(23〜24/BS-TBS)を手がけている。

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