2025.12.05 18:00
2025.12.05 18:00
バブリーダンスの熱狂から8年。今やその説明も必要ないほど、伊原六花は女優として躍進を遂げた。
今年は『パラレル夫婦 死んだ”僕と妻”の真実』『恋愛禁止』の2本の連ドラに2クール連続で主演。舞台『ヴォイツェック』で2ヵ月にわたるツアー公演も無事完走し、また一つ階段を登った。部活少女だった頃から変わらない瑞々しい笑顔と、どんな壁にも負けないタフな心を武器に、伊原六花は自分で自分の道を切り開いてきた。
最新出演映画『栄光のバックホーム』は、脳腫瘍により24歳で引退、28歳でこの世を去った阪神タイガースの24番・横田慎太郎の生き様を描いた感動のヒューマンドラマ。病に冒されながらも懸命に生き抜いた横田の生涯の中で、とりわけ伊原が共感を寄せたのは家族の支え。なぜなら、伊原六花もまた並々ならぬ家族愛の持ち主だった。

横田さんのお母様が私の母と似ているんです
──伊原さんが演じたのは、横田さんの想い人・小笠原千沙。なんでも実際に横田さんにもずっと想いを寄せていた方がいたそうですね。
そうなんです。どういう方だったのかとか、横田さんとどんなやりとりをされていたのか聞いたのですが、映画で描かれているような、一歩引いたところで横田さんを応援し、陰ながらずっと活躍を見守っていた方だったと伺って。私だったら、知り合いがプロ野球選手になったら言いたくなりますが、全然そんな感じの方ではなかったそうで。横田さんが支えがほしいときに、そっと隣にいてくれる方だったんだろうなと思いました。
──何と言っても素晴らしかったのが、横田さんの引退試合に駆けつけたときの千沙の表情です。あの一瞬のカットで万感の想いを表現するのは相当難しかったと思います。
難しかったです。今回、試合と観客席のシーンはそれぞれ別々に撮っていて。私の撮影のときは私しかいなかったんです。だから、もう想像するしかなくて。
──そうとは思えない真に迫った表情でした。
それはもう監督のおかげです。撮影前に試合の流れを監督が細かく説明してくださって。しかもこのシーンに限らず、今回、本番前のテストがなかったんです。カメラマンさんもすごく素敵な方で、私の心が動き出しそうだなと思ったら、スッとカメラを構えて捉えてくださって。本編で使われているカットも、あれが一発目のお芝居。計算する暇もなく、自分の動いた感情のままやらせてもらいました。
──だから、あんなに純度の高いお芝居だったんですね。
完成した作品を観たときに、いい意味で何も考えていない感じがすごく出ているなと思いました。そのときの感情のままやっていたから、自分がどんな芝居をしたか全然覚えていなかったんです。こういうスタイルの現場は初めてでしたが、自分にはすごく合っているなと思いましたし、この感覚を忘れずに他の現場でもお芝居をやっていきたいです。
──そもそもですが、伊原さんは野球はどのくらいご存じですか。
私自身は全然詳しくなくて。ただ、父が阪神ファンなんです。父に連れられて星野(仙一)監督の時代に甲子園球場で試合を観たことはありました。だから、今回のお話をいただいて、いちばんに喜んでくれたのは父なんです。横田さんのことももちろん知っていて、呼び捨てにしてしまい申し訳ないですが「横田か! マジか!」ってすごく楽しみにしてくれました。
──そんな横田さんの生き様について、率直にどうお感じになりましたか。
甘ったれて生きてちゃダメだな。もっと自分にできることはあるはずだというパワーをもらいましたね。人の強さって、当たり前にできていたことが何もできなくなったときにこそ発揮されるものだと思っていて。横田さんの生き方にはそんな強さを感じました。
きっとその強さは横田さんがもともとお持ちだったのもあるとは思いますが、周りのみなさんの力も大きかったんじゃないかと思います。脳腫瘍の再発がわかったとき、一度は挫けそうになる横田さんのことをお母様が必死に支えて、病院にお願いして入院中も付き添わせてもらって。そんな支えに横田さんは力をもらっていたんだと思います。
──そうした家族の支えは、伊原さんも共感できるところはありますか。
ありますね。月並みですが、家族が私の頑張る原動力。というか、大人になればなるほど、私ってもしかしたら他の人よりも家族の占める割合が大きいのかもしれないと思うようになりました。本当に仲が良くて、毎日、テレビ電話をしています。短くても3時間ほど。
──ん? なんか今、すごいこと言いましたね。
そうなんです。私もずっとこれが普通だと思っていたので、結構びっくりされることにびっくりしています(笑)。
──毎日家族とテレビ電話で3時間も何を話すんですか。
全然しゃべっていない時間もあって。姉が洗濯物を畳んで、母は料理をして、私は台本を読んでる、みたいな。でも、とりあえずずっとつなげておくんです。
──なるほど。配信みたいな感じですね。
そうですそうです。家族のグループがあるので、そこをずっと通話状態にして。父も在宅で仕事をしているので、仕事をしながらつなげています。

──すごい。令和の家族のあり方を見た気がしました。
テレビ電話って本当にありがたいですよね(笑)。上京してからずっとそんな感じなんです。文明が発達してくれたおかげで、全然距離を感じなくて。
──では、上京したての頃もあまりホームシックにはならず?
私は毎日新鮮なことばかりだったので平気でしたが、母は心配だったみたいです。だから頻繁に連絡をくれて。その名残が今もずっと続いているところがあります。
──だとすると、久しぶりに実家に帰っても全然久しぶり感がないような。
まったくです(笑)。上京するときに、入場券を買って新幹線のホームまで見送りに来てくれて、そのときもすごく大泣きしたのですが、今思えばあの涙はなんだったんだろうっていう(笑)。ありがたいことに大阪でのお仕事も結構あるので、わりとよく実家に帰っています。
──東京と大阪、意外と近かったなと。
はい。2時間半なんてあっという間でした(笑)。そんなこともあって、横田さんの家族とのシーンはずっと胸が熱くなっていました。こんなことを言うのもおこがましいですが、横田さんのお母様が私の母と似ているんです。どんなときも子どもに無償の愛を注いでくれる。お父様もそうですが、家族みんなずっとそばにいてくれるところは、すごくわかるなと思って。後半のほうはもうずっと熱い気持ちで観ていました。
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