韓国と日本が誇る才能たちは映画『旅と日々』で何を感じた?
シム・ウンギョンと河合優実が挑んだ芝居の極致、響きあう2人に聞く「いい作品とは」に続く言葉
2025.11.15 17:00
2025.11.15 17:00
人が人を知る瞬間にいとおしさを感じます
──今、内面についてのお話がありましたが、声のトーンとか喋り方というアウトプットのところはどう決まっていくんでしょうか。そこは内面に連動するものなのか。意識的につくり込んでいくところがあるのかどうか聞いてみたいです。
シム この役だったらこういう声かな、みたいなことは考えますね。今回も、李はそんなに声が高そうなタイプではないだろうなと。低めのトーンで話してる李の様子がイメージできた。最初に台本をもらったときに、ざっくりとそういうことは考えます。

河合 私も普段はそうすることがあるんですけど、今回はあらかじめプランを練るのはやめて、ただそこにいるということにトライしてみました。私が体を使って何か表現するよりも、できる限り不要なものを削ぎ落として、俳優がいる景色をそのまま撮ってもらったほうが、この作品には合うんじゃないかと思ったんですね。でも、それがすごく難しかった。そうすると、自分になっちゃうんです。吹いてくる風をむき出しの自分が感じているのと、役がそこにいるのって全然違う。ただその場に存在するってお芝居の世界でよく究極の形のように言われることですけど、まだまだ研究は続くなと思いました。
──この作品は旅が大きな柱となっています。お二人は旅は好きですか。
シム 私は普段忙しいこともあり、あんまり旅をしたいと思えないんですよね。ここ数年、日本と韓国を行き来して仕事しているので、それ自体が旅みたいなところがあるし。何よりまとまった休みができたときは、なるべくゆっくりしたくて。出かけるより、ただ休むほういいじゃんっていう(笑)。
河合 家で過ごすほうが好きなんですね。

シム そう。それより睡眠をとったり、生活を整えるほうが私にとっては大切で。でも今回、ロカルノ国際映画祭に参加させてもらって。ヘルシンキの空港にトランジットしたんですけど、北欧の空気感が本当に素敵だったんです。今度お休みがとれたらフィンランドに行ってみたいなと思いました。この映画をきっかけに、旅に好奇心を持てるようになりました。
河合 私も旅は好きですけど、インドアでもあって。本当に面倒くさがりなんです(笑)。行ったら楽しいけど、行くまでに気合いと時間が必要なタイプ。このお仕事をしていると、ロケだったり映画祭だったりで、必然的に今まで行ったことのないような場所に行ける。そこが面倒くさがりの私にはありがたくて。ふらっと一人で知らない土地を歩いたりする時間は、わりと好きです。

──では、日々はどうでしょうか。日常のどんな瞬間にいとおしさを感じますか。
シム 友達と話をしているときに、ふとした何気ないやりとりの中で、「この人、こういうところがあったんだ」って知らなかった一面が見えるときがあるじゃないですか。この映画の中でも、べん造さんが娘と一緒にいるところを見て、李はべん造さんの歴史というか、こういう生活をしていたんだなということを知る。人が人を知る瞬間に、いとおしさを感じます。
河合 私はご飯をつくってるときですね。自分の手からこんなにおいしいものを生み出せるなんて天才だなと思うし(笑)。自分でつくったご飯を食べるだけで、ちゃんと毎日生きてるな、毎日頑張れてるなと思える。私、ペットを飼ってる人って本当にすごいなと思うんですよ。私はもう自分の世話をするだけで精一杯だから。でも、そうやってちゃんと一食ご飯をつくれただけで、これぐらいのことはできるんだって自分で自分を肯定できるんです。

──ちなみに、河合さんが自分を天才だと思うベストワン料理はなんですか。
河合 レモンバターエビパスタです。
シム おいしそう!
河合 おいしいレモンをいただいたんですよ。それでつくってみたんですけど、天才でした(笑)。
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