韓国と日本が誇る才能たちは映画『旅と日々』で何を感じた?
シム・ウンギョンと河合優実が挑んだ芝居の極致、響きあう2人に聞く「いい作品とは」に続く言葉
2025.11.15 17:00
2025.11.15 17:00
韓国と日本を代表する、二つの才能が邂逅を果たした。
『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したシム・ウンギョンが主演を務め、『あんのこと』で第48回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した河合優実がキーパーソン役で出演する映画『旅と日々』が公開中だ。
日本漫画界の異才・つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」が原作。監督は、『夜明けのすべて』『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱。まさにシネフィル必見の1本と言える本作は、ロカルノ国際映画祭で最高賞である金豹賞とヤング審査員賞特別賞をW受賞するなど、すでに各方面から高い評価を獲得している。
シムが演じるのは、仕事に行きづまりを感じる脚本家の李。河合が演じるのは、とある島にやってきた憂いを帯びた女性・渚。別々の世界線を生きる両者を結ぶのは、「旅」というキーワードだ。
決して多くは説明しない。ただ、紺碧の海と白銀の雪景色が五感を震わせ、そこに佇む姿に詩情が溢れる。この美しく繊細な世界で、二人の女優はどんなふうに生きようとしたのだろうか。
お互いに「何を考えて演じていましたか?」
──今回、お二人は初共演となりますが、本編の中で同じシーンには出ていないんですよね。
シム そうなんです。なので、それぞれの撮影している様子を見学に行きました。河合さんの出ている夏編のほうが撮影は先だったんですね。それで、ロケ地の神津島にお邪魔させてもらって。河合さんともそのとき初めてお会いしました。
河合 映画の中でウンギョンさんに会えないのが残念だなと思っていたから、現場に来てくださって、すごくうれしかったです。
シム そのときに夕食を一緒に食べたんですよね。三宅(唱)監督と夏男役の髙田万作さんの4人で。神津島には東京から船で向かったんですけど、私は船に乗ること自体が生まれて初めてだったんです。船酔いしたらどうしようと心配していたら、意外と大丈夫で。そういうなんでもない話をいろいろしました。
河合 そんなに長い時間ではなかったんですけど、お話できてすごく楽しかったです。その後、私も冬編の見学に庄内まで行かせていただきました。

──完成した作品をご覧になって、どんなことを感じましたか。
河合 今回はほとんど完全にお客さん目線でした。それは単純に撮影から時間がだいぶ経ったというのもあるし、冬編に関しては自分が出ていないので客観的に見られたというのもありますけど。もう三宅監督のいちファンとして楽しんだし、この映画が大好きになりました。
シム まずすごく画が綺麗ですよね。そして、台詞もかなり少ない。その分、想像を刺激されるというか、自分が出ている作品にもかかわらず、これからどういうふうに話が続いていくんだろうとワクワクしました。
河合 私はとにかくウンギョンさんが魅力的だなという印象が強く残りました。つげ義春先生の原作ではウンギョンさんの役は男性なんですね。だから、どうして性別も国籍も違うウンギョンさんにこの役をお願いされたのか興味があったんですけど、完成した作品を観てその理由がなんとなくわかったような気がしました。
シム ありがとうございます。私こそ河合さんの存在感に圧倒されました。あれは河合さんにしかできないお芝居だったなと思います。河合さんのお芝居はとても繊細で、大きなスクリーンにその繊細な表現が映えていました。あの夏編は、河合さんという存在があってこそだと思います。素晴らしかったです。
河合 うれしいです。ありがとうございます。

──この場を借りてお互いに聞きたいことはありますか。
河合 何を考えていたら、ああいう空気が出せるんですか。
シム 空気、ですか。
河合 もうずっとそのことを考えながら映画を観ていました。
シム なんだろう。あんまりこういう空気を出そうみたいなことは意識していなくて。頭の中にあったのは、今、彼女がどういう心境かということ。役の置かれている状況を把握し、そこから役の心情を想像する。今回は特に何か大きく「こんな役づくりをしました」ということはないんです。それよりも、アングルの中でそのまま存在していることを大事にしたかった。カメラの前に立つと、どうしても何か表現しようという気持ちになってしまうんですけど、それを抑えて。自分がその場に立って直接感じたものを李として出すことに集中していました。
河合 すごかったです。私もそうしようと思ったんですけど、できなかったかなあ。

シム いやいや、そんなことない。完成したものを観て、ああ、こうしようと思ったのに、できていなかったなあと思うのは私も同じです。むしろ私は河合さんが渚という女性をどういうふうに受け止めて解釈したのか聞きたい。台詞の言い回しとか、もう全部渚にしか見えなかったから。あれは事前に何か考えて練り上げてきたものなのか、それとも現場で自然体の中から出てきたものなのか、聞いてもいいですか。
河合 そうですね。今回はバカンスというのがキーワードとしてあって。
シム バカンス?
河合 はい。バカンスって旅とちょっとニュアンスが違うじゃないですか。なんて言うんだろう。バカンスのほうが、もうちょっと期間が長い印象がありますよね。渚も長くあの島にいて、島の目ぼしいところは大体行き尽くして、もうタバコを吸うぐらいしかやることがない。ちょっと飽きて退屈しているところで、夏男と出会ったんじゃないかなという話をまず三宅さんとしていて。
シム うん。
河合 たぶんこの島に来た目的もあんまりない。本当、ふらっと思い立って来ちゃった感じだと思うんです。きっと日々の生活に満足していなくて、何かうまくいっていないことがあるから旅に出た。その孤独な感じとか、不安な感じを常に心のどこかに持っていようというのは意識していました。
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